【無幻真天楼第二部・第三回】きみぼく
操のことがわからない
「緊那羅?」
分が鼻先で緊那羅の頬をつついた
「操のこと…わからないっちゃ…」
何故か声が震える
操がいなくなったから生まれた緊那羅という自分
操がいなくならなければ生まれなかった緊那羅という自分
黙り込んだ緊那羅を見ていた阿が肩から飛び降りるとくるんと一回転して人型になった
「緊那羅立つよろし」
「え…っ」
「いいから立つよろし! そしてついてくるある」
「ちょ…阿?;」
駆け出した阿を緊那羅があわててサンダルをはいて追いかける
緊那羅の肩から分も飛び降り人型になって緊那羅と並んで阿を追いかけ走る
「なんなんだっちゃ?;」
「我もわからんある」
阿を追いかけてたどり着いたのは神社の裏にある空き地
その真ん中に阿が立っていた
「緊那羅」
阿が一歩足を引いて構えた
「え…?;」
「頭休ませるよろし。考えすぎると嫌なことしか考えられなくなるある」
ぐっと腰を落とした阿がにこっと笑うと緊那羅目掛けて跳んできた
「弱ぇある」
阿がふぅっとため息をついた
「大丈夫あるか緊那羅」
けろっとしている阿とは反対に息があがりきっている緊那羅の背中を分がさする
「だ…いじょ…ぶだっちゃ…」
汗で顔にくっついた髪の毛を払って緊那羅が深呼吸した
「弱すぎある」
緊那羅を見下ろす阿
「っ…」
緊那羅がきゅっと唇を噛んだ
「式の我にすらこんなでどうするあるか」
「たしかに緊那羅弱いある」
阿がしゃがんで緊那羅の顔を覗き込みながらいうと分も頷いた
「緊那羅宝珠どうしたあるか。今つけてねぇあるよな? 気配しねぇある」
分が聞く
「つけてないっちゃ」
ようやく息が整ってきた緊那羅が答えた
「なら早くつけるある。そしてかかってくるよろし」
「宝珠…」
緊那羅がうつ向くと
ウゥウウウウー…
正月町に正午を知らせるサイレンが鳴り響いた
「あ…もうそんな時間だっちゃ…?」
エコーがかかってゆっくりと消えていくサイレンを聞きながら緊那羅がフラフラと立ち上がる
がすぐに膝がカクンと折れて地面に倒れ込んだ
「緊那羅!!」
分が慌てて緊那羅を抱き起こす
息はしていても瞼は閉じている緊那羅
「やりすぎたあるか…?」
「そうみたいあるな」
「…がむしゃらに体動かせば頭は休まるかもあるが…やはり体にはきつかったあるか」
「そうみたいあるな」
阿の尻尾がへたれて地面についた
「…ごめんある緊那羅…」
「それは緊那羅が起きた時にいうよろし。今は緊那羅運ぶあるよ」
分が緊那羅の脇に手を差し込むと頷いた阿が緊那羅の足を持った
「軽いあるな緊那羅」
そしてそのまま緊那羅を家まで運んだ
作品名:【無幻真天楼第二部・第三回】きみぼく 作家名:島原あゆむ