【無幻真天楼第二部・第三回】きみぼく
トントンという戸を叩く音に母ハルミが戸を見た
「緊ちゃん?」
「あ…はい」
慌てた風の緊那羅の返事が聞こえ母ハルミが立ち上がり戸を開ける
立っていた緊那羅は風呂上がりなのか髪をほどいていた
「さどうぞ」
「お…邪魔しますっちゃ」
母ハルミが緊那羅を部屋に招き入れると戸を閉める
敷かれた布団は2つ
「竜之助ならお風呂いったばっかりだからしばらく帰ってこないわよ。まぁ帰ってきても追い出すから大丈夫」
母ハルミが笑いながら座ると緊那羅も布団を避けて座った
「あらあらそんなとこに座らないでこっち来なさい? ね?」
「あ…はい」
緊那羅が膝で歩き母ハルミの側に座る
「あの…」
「聞きたいこと…操のことかしら」
母ハルミの言葉に緊那羅が驚いて顔を上げた
「当たってたみたいね」
その緊那羅の顔を見て母ハルミがふふっと笑う
「話してもいいけど…緊ちゃんは緊ちゃんよ? 操は…もういないんだから」
少しだけ下がった母ハルミの眉
「だからね…緊ちゃんは緊ちゃんとしていてほしいの」
「私…ハルミママさん私おかしいんだっちゃ」
緊那羅がうつむいた
「私…操が…操が京助とどんな風に一緒にいたのかとか…考えると…なんか…」
緊那羅の言葉が詰まる
「京助は…操が好きだったんだとか…」
絞り出すように緊那羅が言う
「私…」
「緊ちゃん」
母ハルミが緊那羅を呼んだ
「緊ちゃんは京助が好き?」
母ハルミの言葉に一瞬驚いた緊那羅が頷いた
「それは緊ちゃんとして?」
また頷ぐ緊那羅
「私は京助好きだっちゃ…でも前の好きとはなんか…違うような…でも好きだっちゃ」
「ありがとう」
母ハルミのお礼に緊那羅が驚いて顔を上げた
「京助ね…前にも言ったけど人の前じゃあんまり泣かなかったの。でもね操の前だとよく泣いてたみたいで…緊ちゃん…京助の泣いてるところ…見たことあるのよね…?」
母ハルミに聞かれて緊那羅が頷く
「…京助…緊ちゃんに甘えてるのね」
「え…? 甘えてる…んだっちゃ? 私に? …でも…それって…」
「京助きっと緊ちゃんが好きなのね」
「はっ!?」
緊那羅が上ずった声を出した
「すっ…す…」
口をパクパクさせる緊那羅の顔がだんだんと赤くなっていく
「京助が緊ちゃんに甘えてたのは操だったことを知る前からでしょ? …京助が甘えたいのは緊ちゃんだから…緊ちゃんに甘えてるの。操じゃない緊ちゃんが好きなのよ」
「わ…たし…でも京助…甘えて…くれてるんだっちゃ…?」
真っ赤になった緊那羅がちらっと母ハルミを見た
「あら緊ちゃんって意外の鈍感なのね。周りからしたらもうわかりやすいったら」
母ハルミが笑う
「皆わかってると思うわよ? 京助が緊ちゃんに甘えてるって…緊ちゃんが好きなんだって、ね」
頭から湯気がでるんじゃないかというくらいに顔を赤くして緊那羅がうつむいた
作品名:【無幻真天楼第二部・第三回】きみぼく 作家名:島原あゆむ