青いワンピース
数日後、また夜勤になったとき、わたしはなぜか胸騒ぎがして、外来の待合室まで行ってみた。
すると、水木さんがいるではないか。
あの日のように青いワンピースを着ていて、わたしに気付くとにこやかな笑顔を見せてくれた。
「あ、あの……」
うまく話すことができずにいると、水木さんが言った。
「お薬をいただきに来たの。ちょっと苦しくなったから休んでいたのよ。もう帰るわ」
静かに立ち去る水木さんの後ろ姿は今にも消え入りそうだった。
腑に落ちない思いで病棟へ戻ると、看護師長さんが声をかけてきた。
「石井さん。どうしたの? 顔色が悪いわよ」
「いえ、何でもないんです」
「何でもないって顔じゃないわ。どうかしたの?」
「今、外来に水木さんがいたんです。お薬を取りに来たって」
「何を言ってるの。こんな時間に薬局はやってないでしょ」
時間はもうすぐ、真夜中の12時になろうとしていた。
「あ」
わたしはそのとき、我に返った。そうだ。腑に落ちないのは当然だ。
「しっかりしてよ。さ、見回りよ」
懐中電灯をもって、病室を見回る。わたしはふと、西の端の個室の前で足を止めた。
水木さんが入院していた部屋だ。今は空いている。水木さんは1ヶ月間入院していた。そして退院してから1ヶ月になる。
何気なく、わたしはその個室のドアを開けた。
懐中電灯の明かりで部屋中を照らす。もちろん、誰もいるはずがない。
後ろ手でドアを閉めようとしたとき、背後に人の気配を感じて振り向いた。
「あ!」
わたしは思わず叫んだ。
ベッドに青いワンピースを着た水木さんが座っているではないか。
さっきのようににこやかな笑顔で。
驚いて身動きもできないわたしの目の前で、水木さんの姿は薄くなって、やがて消えてしまった。
わたしは走ってナースステーションに戻った。
「師長さん」
「どうしたの? 汗びっしょりよ」
「み、水木さんが……」
「え? 水木さん? たった今救急車で運ばれてくるって連絡があったのよ」
「そ、そんな」
「あの部屋、空いていたわね。すぐに入院の準備して」