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しっぽ物語 11.豚飼い王子

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「そう、崇められてるから。それに今の状況で何かしでかしたとしても、『錯乱してたから』の一言で済まされる」
「なにかあったのか」
「ああ……ニンフォマニアだったとさ」
「それ、性病?」
「一言で言えば男狂いって奴だな。何人か誑かしてた」
「へえ」
「何人かに話を聞いた。病院側に見つかって、完遂した奴はいないらしいのが幸いだな」
「誰にでも身体を許してたってこと?」
「最近は至って真面目な顔で君臨してるから、大丈夫だ」
「そう、所詮……ってわけか」
「知ってると思ってたんだが」
「まさか。そんなこと分かってたら、他の手だって考えたのに」
「他の手?」
「まあ、明日奴らが病院に来るならそれでいいんだけどね」
「明日病院に行くのか? それはやめたほうが」
「迷惑は掛けないよ。顔を見せたいだけ」
「慰問が終わってから、俺の方の伝で上手く取り計らってみてもいいんだぞ」
「うん。でもそんな話聞いたら、行かなきゃって気になった。そうか。あの女がね」
「あれはだが、本当に錯乱だったんだ。酷い目に遭わされて、混乱してた。それだけの話だ」
「分かってる」
「本当に?」
「心配するなって。あんたが酷い目に遭うわけじゃないんだから」
「ああ」
「それにしても、女が」
「今は真面目な聖女さ」
「薔薇が好きなのかな。歌が好きなのかな、『いとしのアウグスチン』歌えるかな」


 Rがまた不毛な質問を繰り返す前に、Oは椅子から立ち上がった。完成間近のチキンスープを覗き込む。つい心を許して話し込んでしまった罰か、ぶよぶよとしたあくは鍋の表面を覆いつくしていた。玉杓子で掬い取れるか、ざるを使うべきか。首を捻っている間に、Rは肩を回しながらキッチンを出て行った。巨体が消えスペースは開いたはずなのに、一人の部屋は妙に息苦しく感じた。火から下ろしたばかりなローズウォーターのせいかもしれない。今になって思い出す、言いたくても言えなかった言葉が喉の奥で詰まっているせいかもしれない。

 リビングから聞こえるDの間延びした声は、湯の中から生まれるあぶくの息吹では消すことが出来ないほど無神経だった。ガキなんだって。家に戻れば母親だっているのに、意地張って帰らないんだ。