コスモス2
やったぁー、とクラス中が沸く。そんな中で私一人、すごく嫌だった。そうなれば、きっとタカやんの机はなくなってしまう…。
案の定、その意見がどこからとなく出た。
「先生、タカやんの席はどうするの?」
「やっぱり、なくなるんじゃねーの?いつまでも、花置いておいても仕方ないだろ。区切りつけないと」
「そうだなぁ」
坂上先生が、教卓でうーんと、悩んでみせる。いつまでも置いておくのもねぇ、と周囲がざわつく。私は、さっと手を挙げて意見を云う勇気もなく、ただ下を向いて黙っていた。
どうして、排除したがるのだろう。どうして、忘れていきたがるのだろう。溜まらない思いがどんどん胸に込み上げてきて、私は目の奥が熱くなっていくのを感じた。
「先生」
しゅんと、あたりが静かになった。声をあげたのは静香だった。みんな、何事かと静香に視線を集中させる。
「なんだ、藤森」
「タカやんの机、あのままあそこ置いておいちゃダメなんでしょうか」
えー、とか色々な聞き取れない言葉が飛び交う。
「タカやん、一緒にいさせてあげようよ」
「静香らしくなーい」
周囲の女子が、静香にちゃちゃを入れた。それに、みんながつられて笑う。人気者の静香だ、みんなが静香の話を聞こうとする。
「花瓶だって、そのまま置いておけばいいじゃない。とってもキレイだもん」
でもねぇ、と聞こえる。私は、じっと静香を見ていた。
「コスモスの花が咲いてるのって、なんかタカやんが笑ってるみたい」
その言葉に、みんな黙りこんだ。
そうだねぇ、とある女子がぽつりと云った。そうだなぁ、タカやんいつもニコニコ笑ってたなぁ。何が嬉しいのかしんないけど、ホントずっと笑顔だよな、あいつ。
「じゃぁ、置いておくか。アイツもクラスの一員だもんな」
そうしよう、とみんな口々に云ってあたりは盛り上がった。
私は、やっぱり黙って静香を見て、それからタカやんの席を見た。
陽がさんさんとタカやんの机に降り注いで、コスモスの花は太陽を見上げて大輪を美しく、本当に美しく咲き誇っている。
「そう云えば、誰がいつもコスモスの水換えてるんだ?」
先生がそういうと、えー、誰?知らなぁい、と周りと声を掛け合う。
「まさか、水を換えもしないで二週間も咲いてないよなぁ。恥ずかしがらずに名乗れよ」