コスモス2
教室に戻ってタカやんの机に、元通り花瓶を置いた。机の上にうっすら溜まった埃も、さっと手で払って、おはよう、と小さく呟いてみる。
とっても、寂しかった。
タッタッタッ、と廊下で足音がして、慌てて自分の席に戻った。ガラっと扉が開いて、入ってきたのは静香だった。
「おはよう」
「おはよう、可菜子。早いねー。絶対一番だと思ったのに、職員室行っても鍵なかったからさ、ビックリしちゃった。坂上先生が『西田が持っていったよ』って。いつもこんなに早いの?」
まさか、静香が来るとは思わなかったから、余計に心臓がドキドキと高く鼓鳴っていた。
「うん、私朝早いから」
「そーなんだ」
静香は、同じ中学から上がった三人のうちの残り一人にあたる。明るいオレンジ系ブラウンのストレートな背中まで伸びた髪をすとんと落として、ぐんと大人っぽい。いつもは始業ベルギリギリに走りこんでくるのに。静香も、気付いていないのだろう。
放課後、私はまっすぐに家に帰った。まだ十二月に入ったばかりなのに、店はすっかりクリスマス色になっていて、クリスマスサウンズが流れている。チカチカとクリスマスのイルミネーションが、店を照らす。
「おかえり、可菜子。おやつにいただきもののバームクーヘンがあるわよ」
「うん」
二階に上がって自分の部屋にまっすぐに入ると、そのままベッドに倒れこんだ。
電気をつけていない部屋は窓が異様に明るくて、くっきりと家具のシルエットが浮かびあがる。窓側においた棚の上の、不自然なそれに目がいってしまう。伏せた写真たて。あの日からずっと、それは伏せたままにしてある。タカやんと、静香と、私と。高校に入学したときに、三人で撮った。ニコニコと笑顔のタカやん、おすまし顔の静香、写真が苦手な私はちょっとぶすっと不機嫌そうな顔をしている。
どうして、何も相談してくれなかったのだろうか。どうして、一人で苦しんだのだろうか。どうして死んだのだろうか。どうして飛び降りたのだろうか。どうして、ここですべてを終わらせたのだろうか、たった一人で。
枕に、思い切り顔を押し付けた。
まだ、あの写真たてを戻せずにいる。
五時ごろ、時計を確認して、コートを羽織った。下へ降りて店へ出ると、コスモスを一本勝手にくすねて、それを持って走って店を離れた。