コスモス2
学校までの道のりは、とても閑散としていた。カラカラと枯れ落ちた黄色や茶色の葉が風に吹かれて道路を駆け抜けていく。ビュウンビュウン冷たい風が猛威を振るい、私は思わずマフラーに首をすくめた。四季折々に姿を変える、歩道横の自然豊かな野原は、冬の今、ガランと枯れた芝生が広がるばかりだ。
コスモスが美しく、その大輪を咲かせたのは、まだ日中に暖かさの残る秋、十月くらいだったはずだ。線路沿いの向日葵を見ても、民家の子どもが育てている朝顔の花を見ても何も云わなかったタカやんは、コスモスを見ると「キレイだな」と、いつも云っていた。
「鮮やかで、キレイだな」
ふーん、と聞いていた。その日から、一人のときも、コスモス畑に足を止めて見入るようになった。
職員室に鍵を取りにいくと、担任の坂上先生がふんふんと鼻歌を歌いながら新聞を読んでいた。
「おはようございます」
「おう、おはよう。西田早いな、いつも」
私は教室の鍵と日誌を持って、部屋を出た。出たところすぐに置いておいたコスモスの花の入った紙袋を手に取る。絶対職員室にこのコスモスの花を持って入ることはない。もし、先生がこのコスモスの花を見つけて、「キレイだな」と云ったりしたら困るからだ。
教室は、外よりも暖かい。少し埃っぽい教室独特の匂いに、鼻の奥がツンと痛くなった。
タカやんの机は、窓際一番後ろだった。桃色の花瓶は、先生が用意したらしい。最初に花瓶を持ってきて花を活けたのは、先生だったようだ。そのとき活けてあったのは、偶然にもコスモスの花だった。昨日挿したコスモスの花は、まだピンと茎を伸ばしてキレイに花を咲かせている。
その花瓶と、持ってきたコスモスの花を持って、私は教室を出た。まだ八時前の廊下には、人の気配はまったくなかった。
この階には、一番奥にトイレがあって、その手前に共同の蛇口が三つ並んでいる。真ん中の水道で、花瓶を洗い、新しい花に活け換える。活けてから一日しか経ってないのに、埃やゴミが浮いているのがわかった。昨日花瓶に活けたコスモスの花は、まだ十分に咲いていたけれど、私はそれを抜いて今日持ってきたコスモスに活け換えた。毎日、そうやってコスモスの花を活け換える。毎日、最高に美しく咲いていないとダメなのだ。
持ってきた方を花瓶に活けた。それまで花瓶に入っていたものを、ゴミ箱に入れた。