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Blood Rose

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無機質な部屋に似合わず立派な机と座り心地のいい椅子が並んでおり、
その中の一つにライアは横になっていた。

ルイスと一人の男が向かい合って座り、
何やら話している。

かすかに聞こえる水の音に負けそうな程の小声だが、
近況報告を行っているようだ。

そんな中ライアは時おり体を震わせたり、
顔をしかめて汗をかいている。

悪夢を見ているのか、
不定期にか細い声を漏らしていた。

「ライア、大丈夫か」

ルイスが声を掛けるとライアの体がビクリと震えた。

短剣を抜いて上体を起こし、
肩で息をしている。

再び同じ言葉を投げ掛けると我に帰って一息吐いた。

「あ、う……、る、ルイス?」

目が馴れるまでにはそれ程掛からなかった。

目の前に居るルイスと、
向かい側に座る男性を確認する。

次いで短剣を手にしている事に気付き、
ゆっくりと鞘に納める。

「ライア、この男がルファスと言う。腕は確かだが今は前線を退いている。組織の幹部だ」

突然の紹介に目を白黒させながらもライアは短く自己紹介した。

ルファスと呼ばれた男も軽く微笑んで挨拶する。

なかなか美形な男だ。

血のような緋色の長髪が印象的で、
ヒューマンの中でも背が高い方だろう。

整った顔立ちも世の女性なら目を奪われる程だ。

ライアもしばし頬を赤らめて見とれたが、
組織の実態を知っているだけに気を引き締め直した。

面接とでも言うのだろうか。

その後はライアの生い立ちや能力についての話が中心となった。

本人はもし目に止まらなかったら機密保持の為に消されるのではと、
常に心臓が握り潰されそうな心持ちだったのだが――

金属の形状を変化させる錬金術、
金属変成が使える事をルイスが説明した。

続いてライアは辿々しいながらも多少は父親に剣を習った事があると告げた。

現在はラングルと姓を名乗っている為ルファスは知らないが、
フランクリン家に婿として迎えられたのが武道の名門、
アルバート家の者である事は比較的有名な事実である。

結果、ライアの心配をよそにルイスの売り込みもあって高い評価を得る事が出来た。

「実戦経験が乏しいが、潜在能力は高そうだね。お前の紹介でもあるし、わたしが直々に指導しても構わないが」

ルイスは高い魔導工学の技術を組織に提供したり、
実際の任務でも優秀な功績を残している人物でもある。

貢献度の高さが組織の幹部をも引き付けるのだろう。

組織そのものは基本的に請け負いの形を取っており、
義に反する者のみを暗殺するといういわゆる義賊だ。

依頼が無くともあまりに目に余る悪人は手に掛ける事もあるが、
それは組織そのものの存続に大きく影響する場合がほとんどだ。

一部捨て身の任務を遂行する人員も養成しているが、
重罪を犯して最後に少しでも罪滅ぼしをしたいなどの本人希望である場合が多い。

ライアの場合は若過ぎる事もあり、
基本的に身体を武器とした任務は想定しない事となった。

請け負い業に参加する人員といった感じで、
比較的軽度の訓練にとどめる予定だ。

軽度と言ってもやはり軍隊とは違うし、
いわゆる魔物の討伐要員でもない。

純粋に諜報と暗殺を行う為なので訓練方法も特殊である。

「まず死の概念は知っているかな。肉体にダメージを与えて失血したり、毒などの異物が体内に侵入して内部的に身体が動かなくなる事。精神的に消耗したり魂を傷付けられたりして肉体が制御出来なくなる事、この二つが挙げられるね。例外として寿命を全うした場合もあるかな」

ルファスはライアを怯えさせないように優しい声色で話し続ける。

「蘇生の術にも二つあって肉体を本来の形に戻す術と、魂を肉体に入れる術がある。例えば失血死の場合は二つとも施さないと蘇生は完了しない。後者の術は魂が拒めば肉体に戻って来ない場合もあるんだよ。寿命の場合は本人が望んでも肉体が限界を越えているから戻る事は出来ないけれどね」

要するに他人に殺害され、
被害者が蘇生の術を受けても未練が無ければ戻って来ない事もあると言う事だ。

完全なる死は、
肉体的な死を迎えてから月日を経て身体が朽ちた場合。

魂が何からの理由で蘇生を拒んだ場合となる。

高位法術である蘇生を使える者自体も少ないが、
即座に蘇生を受けても生前の恐怖心が残っていれば蘇生を拒む者も少なくは無い。

生きる事は楽しくもあり、
辛い事でもあるのだ。

ルファスが言いたいのは、
暗殺対象となる人物が誰からも蘇生を求められない程の愚か者だと言う事だ。

いくら金持ちで術者を雇う事が出来る人物であろうと、
他人に、世に貢献するような人物でなければ誰も蘇生の依頼などしないだろう。

逆に言うならば暗殺された者を再度利用する為に蘇生を目論む者も居るかもしれない。

任務を完遂する為にはそういった人物も含めて消す必要があると言う訳だ。

「他人を虐げて私腹を肥やす。何百人、何千人の苦しみで数人が過剰な贅沢をするのはおかしい話だと思うよ。奴等は力で大衆を押さえ付け、どんなに足掻いても手も足も出ない者達の苦しみも知らず、全てにおいて自分が最優先だと思ってる。それでも人を殺す事は罪だと思うかい?」

ライアは何も答えず、
静かに母親の顔を思い浮かべた。

作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉