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Blood Rose

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修練



 起きた事件を解決したり、
治安維持活動を行う自警団よりも攻勢で的確。

秩序を乱す者に情けは無用。

その組織の名はリカッソ。

リカッソとは本来、
剣の鍔と刀身の間に設ける切れない刃の部分を指す単語だ。

短剣のように元々短い刃物には存在しないものもあるが、
長剣等は基本的に刃の根本で攻撃する事が無い為、
得物を鞘に納める長さが短くなり抜き易くなる他、
第二の柄としてリカッソ部分を握ったり片手を添える事で間合いを短くし、
防御や攻撃に際する対応力が増すものである。

特に至近距離での防御や、
止めとして剣を突き刺す場合に有効とされる。

この組織名としてのリカッソは、
対応力の高さと切れない刃であるにも関わらず、
止めの一撃も兼ね備えた残忍さを表現したものだろう。

そのリカッソの幹部であるルファスは現在、
一人の少女を教育している最中だった。

ルイスはルファスに教育を委託して自宅へ戻っている。

ライアは心細かったが、
勉学に集中する事で気を紛らわせようと勤めていた。

「なかなか覚えが早くて結構だ。そろそろ実践に移ろう。では私を殺してみてくれ」

本を開き、優しく語り掛けるように説明していた矢先の出来事だ。

最も、ルイスを殺せる実力が無い時点で戦闘術をいくら知識として蓄えても不可能な芸当だろう。

逆に全力を尽くしてもいいのか、
と妙に納得出来た。

ルファスは立ち上がって別の部屋へ移動すると、
そこはかなり広い空間となっていた。

天井は高くないがここなら存分に動けるだろう。

ライアはどこか吹っ切れたような気持ちで短剣を抜き放つ。

構えてすらいないルファスを追って部屋に入ると背後から急襲を掛ける。

情けは無用。

組織の実態を知ってしまった以上、
万が一殺してしまっても訓練中の事故で片付く些細な話だ。

一見して単純な突進だがかなりの速度に達していた。

予想通り寸での所まで接近してもルファスは動かない。

短剣が触れるか否かのところで振り向いたがもう遅かった。

勢いに乗った得物は服を貫く。

次いで皮膚に触れたその時、
急に短剣の刃先がねじ曲がって殺傷能力を失う。

だがライアは冷静だった。

あっさり殺せる訳が無いと理解していた事もあり、
素人ながらに気持ちを落ち着かせているようだ。

片手で刃先に触れ形状を変えて本来の機能を取り戻す。

得物としての機能、
対象を傷付ける事に特化していると言えば刃だが、
この至近距離では針の方がいいと判断する。

アイスピックのような鋭利で冷たい先端が首元を襲う。

ルファスは真顔でそれを掴むと再び先端をねじ曲げた。

金属変成。
やはりライアと同じ能力を持っているらしい。

短剣サイズの金属では作り出せる武器の形に限界があるが物は考えようだ。

ライアは再び金属部分に触れて一瞬目を閉じる。

得物が一気に伸びて鈍器になった。

金属の質量が少ないなら内部を空洞化してしまえばいい。

この際強度は二の次だ。

両手で振りかぶり頭部目掛けて振り降ろした。
いくら形を変えられようとも打撃ならば完全に威力を殺す事は出来ないはずだ。

やはりルファスは先程と同じように得物を掴んで防ぐが、
ライアは更に力を加えた。

握った手が触れている部分を刃に変えようとしたが、
ルファスの力に負けて思うようにいかず、
得物を捨てる選択を強いられる。

金属変成を使える者同士で同じ物体に能力を働かせた事など初めてだが、
技術が上回る方が制御権を握れる事が分かった。

ライアは気を抜かずに距離を開けて様子を伺う。
だがこの状況になってもルファスは終了を告げなかった。

握ったままの金属から糸を伸ばすようにし、
ライアを追い始める。

金属の塊をほどいていくような繊細な技術だ。

糸状に伸び続ける針を避けながらライアは走った。

一ヶ所にでも刺さればそれは体内を駆け巡り心臓を貫くのだろう。

しかし室内は狭く、
ただでさえ目視する事すら難しい程細い物体だ。

更に縦横無尽に動くそれを避ける事は困難を極めた。

辛うじて避け続けていたものの、
状況の好転は見込めない。

一か八かで素手による攻撃に転じようとしたがあっと言う間に鉄糸に全身が絡め取られる。

身動きが取れなくなった時点でさすがに終了かと思った矢先、
一息遅れて激痛が走った。

鉄糸の先端が背後から右肩を貫いていたのだ。

「ぐっ……ううぅ……」

それ自身は細い、
が立派な凶器である。

骨や筋等の大事な部分は避けているものの異物が体内にある恐怖が幼い少女を襲っているのだ。

ルファスは鉄針を納めると元あった短剣の形に戻してライアの目の前に置く。

ボンッ!

直後室内に煙が充満する。

短剣に触れるふりをして石の床に触れ、
粒子を細かく変化させると同時に空気の流れを操作して上昇気流を発生させる。

自然物を精製しているのは精霊だと言われている。

自然物は物質体とエリクシールと呼ばれる精霊の力で構成され、
エリクシールは言わば設計図のようなものであり、
それを操作する事で様々な形状に変化させる事が出来るのだ。

錬金術の基礎にして最重要となるこの方法をライアは心得ているようだった。

金属のみならず同じ鉱石である石や大気のエリクシールも操作する事が出来る事が解ったルファスは、
内心では期待に胸躍らせているようだ。

ライアは擬似的な煙に紛れて出口へ向かって走り出した。

入り口の順路は記憶出来ていないが立ち止まる訳にはいかない。

本能的な部分でこのままでは殺されると警告が鳴り続けていた。

「煙幕は逆効果だ」

相変わらず冷静なルファスは腰から抜いた鉄針を投げる。

煙から抜け出したライアの頬を何かがかすめた事に気付くと即座に振り返った。

自分が貼った煙幕から無数の鉄針が飛んでくる。
確かに投げている相手が見えない事で自ら回避を困難にしていた。

こうなっては運に賭けて走るしか無い。

多数の鉄針が身体に傷を残し、
全身に突き刺さっていく中でも死に物狂いで全力疾走する。

鉄針は小型のものばかりで殺傷能力は低く、
本当の意味で殺そうとしているのでは無い事が唯一の救いであった。

「見込み通り筋はいいが、惜しかったな」

ルファスの声が耳元で聞こえた気がした瞬間、
後頭部に強い衝撃を感じて意識を失った。


 「任務に失敗して捕らわれる者も少なくはない」

ライアが微かに意識を取り戻した時に聞こえたルファスの言葉だ。

気付けば個室に移動しており、
両手が不自由となっていた。

金属変成が行えないように木と革で作られた手枷で固定されている。

全身が重く、
瞼を上げる事すら億劫だった。

「自白剤を投与されたり、毒によって命を落とす事もある。組織の秘密を吐かれても困るし、君は素質があるので逃げられても殺されても困る。これから死亡しない程度の濃度で様々な薬物を投与するので、身体に慣らして貰おうと思っている」

ルファスが言い終わると、
他にもう一人の人間が室内に居る事が解った。

ライアの手を強く掴んで固定すると、
何か冷たい物が触れた。

無常にも注射器の針が白い肌を貫く。
作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉