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Blood Rose

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会談



 大中小、様々な武具が棚に置かれており店番をしている店主の居る奥の部屋からは金属を叩く音が聞こえて来る。

客は大半が男で、
平均的に見ても大柄な者が多い。

しかし今日は珍しく、
そんな中にも隅に追いやられるようにして二人の少女が居た。

商品を手に取ってみてはなにやら首を傾げ、
棚に戻しては新しい物に手を付けるといった具合に迷っているらしい。

「基本的に技術も力もまだ未熟だ。それならば相手を確実に仕留められる短剣を勧める」

短剣と一言に言っても、
斬り付ける事に特化した物や突き刺す事に特化した物など様々だ。

一応助言により様々な種類の中から一種類に絞れたものの、
まだ決める事が出来ない。

「あの、ドワーフの国なのに他種族の方が多いですね……。少し安心しました」

武器を選ぶ事は止めずにもうひとりの少女が口を開いた。

純手と逆手、
両方で握ってみて感触を確かめている。

その様子を眺めながら筋は悪くないなと思いつつ質問に答える。

「我国は高い科学力を有する……主に鍛冶だな。だからドワーフのみならず他国から買い付けに来る者は珍しく無い。国そのものもこの手の商業で成り立っているから、
他国民を阻むような事はしていない。もちろん、その高い技術とドワーフの高い生命力が相まって、高い軍事力があるからこそ安心して解放出来るのだがな」

なるほど、と関心しながらも手は止めない。

何百本目かを手にした時、
やっとの事で表情が変わった。

手に馴染み、重さ、長さ、携帯のし易さ等、
様々な面でしっくりくる得物を見つけたらしい。

若干気になる部分もあるが今まで手にした物の中では一番良かった。

刀身が細く一見して頼りないが、
小型のわりに何度も焼き入れされているらしく程よい重さがある。

布と革紐で締められていて握り心地も良い。

重心が先端寄りな為投擲にも使えるそうだ。

客が捌けてきた頃、
長い髭で隠れた店主の口が開いた。

「ルイスじゃないか、久しいな。刃物は使わなくなったんじゃないのかい」

「わたしの連れが入り用でな。一昔前より質が上がったようだが」

新しい技術を取り入れたからと、
その説明が長々と続く。

ルイス自体も興味があるらしく相変わらず落ち着いた様子で耳を傾けている。

二人が話している間に他の商品を見ていた少女は、
店主に呼ばれてそちらへ歩み寄った。

他の客を避けながら何とか目的地に到着すると、
軽く髪を整えてから小さく黙礼する。

「何をお探しかね?」

店主が長い髭を上下させながら言うと、
少女は先程手にした短剣をカウンターに置いた。

護身用かね、と軽く首を傾げてそれを手にすると、再び首を傾げる。

「あんた、見たところ若いけど錬金術師さんかい。それにしてもエルフのお嬢ちゃんがここに来るのは珍しい。失礼だがお名前は?」

「特に職業はありません……申し送れましたが、名はライア・フランクリンと申します」

名を言った瞬間、
店主の目付きが変わった。

カウンターの向こう側から背伸びをして二人の肩を引き寄せると、
驚いた顔のまま小声で言う。

「フランクリンって、共和国のかい?有名だからその名はこの国で使わない方がいい。人質にされるどころか奴隷商人に売られちまう」

エルフ族自体が男女共に美しいとされていて、
実際人買いには高値で取引されている。

世の中には物好きが多く、
名が知られていると言うだけで話に尾ひれが付き易い。

商談の材料にもなるので悪どいやり口の奴隷商人に狙われたら幼い少女などひとたまりも無い。

「確かに今はわたしが居るからいいが、常に一緒にいられるとも限らないな」

「ルイス、この子は金属変成が使えるのかね」

この問い掛けにルイスも首を傾げた。

ライアの方を向き直って聞くと、
小さく頷く。

その様子に納得したのか、
店主はなるほどと大きく首を上下させ、
カウンターに置かれた短剣を抜き、
右手と左手で交互に握りなおした。

その短剣は持ち手の部分に指の形と合うような凹凸があり、
握り心地、滑り憎さ共にいい仕上がりとなっていた。

店主は自分の工房ではこの加工をしていない事を知っているので、
先程手にしていたライアが施した細工であると気付いたようだ。

「そうじゃね。伝説とされる鍛冶師ラーグリュートにちなんでラングルと名乗りなされ」

ライアはその名が気に入ったのか、
はにかんだ笑みを浮かべた。

しかし個人的な加工は職人が悲しむので、
購入後に行ってくれと注意もされた。

確かにそうだと謝ったが歳を取るとどうも説教臭くていかんなと店主が笑うと、
ライアも沈んでいた表情に明るさが戻る。

「目的は果たしたし、次に行くぞ。世話になった」

ルイスは短剣の代金を払うと店を出た。

ライアも急いで礼を言うと、
その後を追った。


 武器、防具、薬、花、家具、食料、様々な店が立ち並んでいる。

ライアは今まで見た事が無かった街を眺めながら歩き続けた。

教会が見えた時、
ルイスが急に曲がったので後に続くと、
日の光が当たらない細長い通路に差し掛かる。

進路を変えて更に日の光が届かない方向へ歩き出した。

ライアは目の前で揺れるルイスの短い髪を注視しながら後を追い続けた。

右へ左へ、今までの喧騒が嘘だったかのように静かで薄暗い入り組んだ通路を歩き続けると、
薄汚れた建物の横でここだ、とルイスは小さく声を発して壁に手を当てた。

隠された通路が開いて建物の中へ入ると入り口が自動的に閉まり、
更に暗い階段を下っていく。

幾本もの分岐があり、
右へ左へ上へ下へと移動し、
完全に方向感覚を失ってしまう作りになっている。

ライアは急に非日常の世界に放り出されたような感覚に陥り、
足が思うように前に進まない事に気付いた。

しかしルイスもその気持ちを察したか、
一度立ち止まってから手を繋いで再び歩き出す。

かれこれ半刻は歩いたのではないだろうか。

やっとの事で明かりを確認する事が出来た。

石で作られた簡素な地下室には数本のたいまつがあるだけで非常に視界が狭い。

足元が見えない為前進する事自体に恐怖心を覚える。

そんな中でもルイスはお構いなしに歩みを進めてみせた。

「ルイスだ。新人の手続きと仕事を貰いに来た」

ドワーフであるルイスの身長だと受付の机に隠れてしまうが、
声を聞いただけで解ったのか奥の部屋へ通された。

ライアもそれに続く。

金属製の重厚な扉が開かれると、
先程まで居た暗い空間が嘘だったかのような部屋が広がっていた。

ルイスの後から目を細めてライアが続くと、
眼前に何かが降ってくる。

「何者だ」

顔を目深に被ったフードで隠した男が短剣を首元に付き付けて問う。

「新人だと先程言ったはずだが」

変わりにルイスが答えると、
男は刃を収めた。

「あ、あっあぁ……」

紹介するから来いと呼ばれたライアは数回口をぱくぱくと動かした後、
その場で意識を失った。


 石造りの部屋。
地下水が流れ込んでいて湿り気がある。

肌寒く窓一つ無い室内だが、
輝く鉱石が散りばめられた大きなシャンデリアがあるので不自由はしない。
作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉