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Blood Rose

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防御に回るのは難しい状況だ。

逆にこちらも懐に飛込み、
得物を倒して柄の先端で相手の鎌を跳ね上げた。

梃子の原理を利用し細身な体から大きな力が生み出される。

上を向いた男の得物はその長さに邪魔をされ、
引き斬る事は出来ない。

サーシャは反動を利用して右手を刃の付け根に沿え、
思い切り前に突き出す。

だが再び降り下ろされた鎌で柄を弾かれる。

男の眼前を刃が通り過ぎ、行き場を失う。

既にお互いの間合いでは無い。

仕切り直しに距離を置くかと思われたが、
二人は目と目を合わせて笑っていた。

刃を合わせる者同士の連帯感と言うものはどこでも産まれる物だ。

ただでさえ互いに優秀だと認めたならば、
敵としてでは無く友としつ出会えたならばと思うのも当然。

それが叶わない事は解っていても、
生と死を分かつ仲になってしまったからこそ願わずにはいられないのだ。

更にはお互いに相手の得物を片手で確実に止められる間合いに落ち着いてしまえば、
それを伝えたくなるのも理解出来る。

「来世は仲間でありたいものだ」

首筋に迫る鋭い牙をサーシャは瞬時に後ろに飛んでそれから逃れたが、
ドアに近い立ち位置では存分に鎌を振る事は出来ない。

法術補助の印を結んで相手の出方を伺うが、
あまり状況はよくなさそうだった。

長い鎌の特徴をあえて殺し、
短めに握った男は闇に溶けるようにして接近する。

確実に傷を与えて弱らせるつもりだろう。

「大地の加護、災いから我身を守りて混沌を打ち砕け」

勢い良く後方に飛び、
扉に激突して図書室へ退避する。

斬撃を受ける瞬間に発生させた防御法術が男の刃を弱めたが、
下腹部の出血はかなりの物だ。

「力無き者故の儚き願い。故に力を欲し、闇を打たんとす。大いなる御力で彼の者を癒さん」

後方から聞こえて来た詠唱に目を向ける暇は無かった。

声と詠唱語句で誰かはすぐ判る。

追撃を何とか防いだサーシャは、
レイスの癒しによって傷口が塞がった。

男は仕切りなおしになった事に舌打ちをして再び攻撃に移る。

「葉を散らす風の加護、彼の者を守護せん」

サーシャを淡い光が包み込み、
風の加護を得て瞬発力が増強される。

レイスの詠唱が完了するまでに男を中に入れまいと、
扉の狭さを利用して牽制を続けた。

「邪念を捨て、清水の如く見定めん」

水の様な穏やかな心を保ち、
冷静に狙いを定められる支援法術が展開される。

元はと言えば自分の教え子は、
神聖法術については自分と同等の能力を持っている事を知っていた。

「闇夜を切り裂く悪しき爪、その邪悪なる物から守れ」

続けざまに身体の周囲に空気の壁を作り出し、
接近する物に対する衝撃を和らげる障壁を形成する。

今は四種類ある神聖法術の中から自分が最も得意とする攻撃系の法術を教えている段階だった。

法術としての性質は似通っているがどうも覚えが悪いようで、
薄々感付いてはいたが攻撃系統は適正が低いのではと思い始めていたところだ。

己の命が掛かるこの盤面で、
最も得意とする強化及び回復の法術が開花する事が大いに期待される。

目の前の男の矛先が明らかにレイスに向いている事を打開すれば、
流れは一気にこちらへ向くはずだ。

既にサーシャは様々な加護を施されて人外の能力を得ている。

しかしながら男も負けてはいない。

双方共に剣術を専門としているわけでは無く、
特に男は奥の手として暗黒法術の一種である呪術が使えるようだ。

斬撃の合間に呪印を放って行動に制限を掛けて来る。

強烈な呪印で体の自由が利かなくなろうとも、
サーシャは引かなかった。

その隙に距離を置いた男は、
勝ちを悟った様な笑みを浮かべる。

「死霊の血塗られた御手よ、混沌より出でよ」

更には地中から這い出してきた無数の手がサーシャの足に掴み掛かった。

怨霊の手を切り裂こうにも実体が無いのでそれは不可能だ。

強烈な斬撃を短めに持った鎌で防ぐも、
死は目前に迫っている。

「餓鬼に頼ったのが失敗だったな」

死神の鎌はサーシャの魂を刈り取ろうと振り上げられる。

「闇より出、漆黒の刃を清めし精霊……」

止めとばかりに口を開いた男の動きが止まった。

「我四足たるや儚き想いに向かいて努力を惜しまん」

後方で膨大な法力を放出しながら詠唱するレイスを脅威と取ったのか、
お前は後回しだと言わんばかりに男はサーシャに更なる呪印を結んで行動を制限する。

「可不可すら見極められぬこの刻、故に力を欲し、闇を打たんとす」

死神とは神の使徒であるとされる。

神の命により刈られるべき魂を刈り、
神の名を汚さぬ為に相反する黒装束を身に纏うのだ。

死神が鎌を一度振り上げると必ず一人の魂をとるといわれ、
それから逃れるためには、
他の者の魂を捧げなければならない。

しかしこの死神は、神が定める運命を捻じ曲げ、その行為を楽しんですらいた。

「汝の力を我に与えん」

レイスが法術を唱え終えた瞬間、体が傾いだ。

声が出ない。

本来ならば上位の神聖法術が発動しているはずだった。

膝から崩れてなお男を睨み付ける様に見上げると、
長い牙の先には真っ赤な血が付いている事が解った。

詠唱に集中していて気付かなかったが、
いつの間にか肩口に激痛が走っている。

体内の水分を吸い取られた様な何とも言い難い脱力感に襲われた。

時刻は大分過ぎ、
闇が深くなっている。

男の力は今にも爆発しそうな程みなぎっているに違い無い。

力無く崩れるレイスと、
その様子を歯噛みしながら見守るサーシャの間で男は笑っていた。

レイスの髪を掴み上げ、
サーシャの前に突き出す。

そして再び首筋に牙を突き立てた。

「んっ、うぅ……!」

苦悶の声を上げるレイスの目が見る見る内に赤く染まっていく。

男が差し出した鎌を掴むと、
サーシャに向かって振り上げた。

牙から血液に直接呪いを送り、
対象を操る術だ。

師でも抗えない術に弟子が掛からないはずも無い。

だが肩で喘ぎながらも必死に抵抗している。

しかしそれも束の間、
サーシャの首を刈り取る為にそれは振り抜かれた。

ガキッ――

「む……」

男は唸った。

レイスの鎌は空を斬り、
地面に突き刺さったのだ。

振り返った相手を見た男は一際深い笑みを浮かべる。

己の鎌を託した相手は完全な使い魔にはなっていなかったようだ。

男と同じ様に、
レイスの口元は真っ赤に染まっている。

唇を噛み切って理性を保ったらしい。

しかし少女の体格に似合わない鎌はあっと言う間に奪い取られ、
男が右手を伸ばして何かを引くような動作をするとレイスの体はいとも簡単に引き寄せられた。

怨霊を宿らせた牙で首元を裂かれ、
出血と共に体の自由が完全に奪われてしまう。

血も失い過ぎたせいか、もはや瞳に光は無い。

サーシャの呪いが解けた頃には肉塊があたりに散らばっているだけだった。

男は敢えて急所を避けて鎌を振っていた。

苦痛と恐怖に呻く少女を眺めながら笑っていたのだ。

息絶えた後にレイスの死体を更に破壊した。

神聖法術の最高峰による蘇生は可能だが、
作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉