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Blood Rose

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分家



 法術学の名門フランクリン家。

法術士を志す者なら必ず一度は耳にする名だ。

武術学の名門アルバート家との交流が深く、
武術家達の中にも知っていると答える者は少なく無い。

女性優位のフランクリン家に婿としてアルバート家の者が名乗りを上げたり、
またその逆の場合もある。

フランクリン家の分家には、
フラン家と言う魔導工学の名門も存在している。

言うなれば法術学と科学の両方の良い所を活用しようとするのが魔導工学で、
フラン家は主に科学を得意としている。

反面、
フランクリン家は法術学を得意としている。

その点からフランクリン家とフラン家は、
端から見れば非常に理想的な関係だった。

しかしそれは表向きの話で、
フラン家は実際のところ暗殺家業を生業としている。

この両家の裏では、
常に紛争が絶えなかったのだ。

本家を妬んだ分家が暗殺組織と手を組み、
本格的に刺客の育成に性を出し始めたからだ。

女系の家柄であるフランクリン家は優秀な長女とそれなりに素質のある次女までは可愛がられたが、
結果的に母親の機嫌を損ねた為次女と三女は事実上捨てられた形となった。

フラン家も元来男系の家柄だが娘が産まれた為、
その扱いは酷いものであった。

憎きフランクリン家への刺客として暗殺術も教え込み、
魔導工学の結晶とも言える技術を惜しげもなく使い、
次なる跡取りを産むよう非人道的な肉体改造を施した。

その娘の名はルイス。


 フラン家の建物はフランクリン家とは違う隣国の領土にあった。

内装はそれなりに高級感があるものの本家とは違い、
石造りの建造物である為かどこか冷たい印象を受ける。

ライアが来た日の晩、
一先ず親睦を深める為に会食を執り行う事となった。

フランクリン家の母親は捨てるつもりで送り出したのだが、
父親だけは心配で仕方が無かった。

優位に立っている母親の制止を振り切り、
使い魔を出して監視しているのだ。

母親は不出来な娘の為に無駄な労力を使う事を嫌ったが、
初めて見せる旦那の強い意思の現れに心打たれ、
半年だけその行為を許したのだった。

実際、
その間ライアの安全は保証されていた。

その日の会食はそのお陰か、
和やかな雰囲気で終わりを告げた。

ルイスの父親と母親に温かく迎えられ、
ライアは初めて幸せな気持ちを味わった。


 「今日からお前はわたしの目下だ」

父親に言われ、
ライアを部屋に案内していたルイスは不意に口を開いた。

「だが対等の立場で物を言ってくれて構わない。しかしここに順れるまでは指示を仰ぐように」

「畏まりました」

ルイスよりもライアの方が年上だが初対面と言う事もあり、
更には互いの家を守る為の他人行儀なやり取りだ。

しかしながらお互い、
親に恵まれなかった境遇から早くも打ち解ける事が出来た。

ライアは専用の個室を与えられたにも関わらず、
余りに部屋が広すぎて落ち着かない事と、
ルイスが甘える事もあり結局同じベッドで寝る事となった。

二人は遅くまで辛い過去を語り合い、
今までの苦労、
苦痛を分かち合う。

泣きながら抱き合う二人を、
使い魔を通して見ているライアの父親も共に泣いていた。

目が真っ赤に腫れる程、
ごめんなと呟きながら。

だがルイスはこの幸せが長く続かない事を知っていた。

反面ライアは実の父親に護られている事を知らないのだ。

ルイスは、
ライアを心身共に鍛える事を決意する。

実の娘である筈の自分を、
捨て駒として扱う憎き父親に強いられた暗殺者への道だ。

ルイスが暗殺術を習得するのが素早かったのは、
極めて高い適正の持ち主てあったのも事実だが、
父親に復讐する為に血の滲むような努力を惜しまなかった事が大きい。

ライアは見た所、
極めて気が弱い。

虐げられて来たが故に他人を傷付ける事を拒むだろう。

しかし逆を言えば、
それ故に一度手を染めれば歯止めが効かなくなる可能性も高い。


 「ライア」

短く、
少し低い声でルイスが名を読んだ。

運命の半年まであと五ヶ月足らずとなった静かな夜だった。

ライアが胸元で眠るルイスの髪に染み付いた血の匂いが日に日に濃くなる事に気付き始めた矢先だ。

「何でしょう」

ライアも短く問う。

だがルイスの小さな頭を撫でる手は止めない。

「生きる為に殺すのは罪か」

二人きりのベッドで、
ルイスが初めて見せた真剣な瞳を覗き込む。

「いいえ」

「そうか。ならばその術を身に付けろ」

時は止まっていた。

互いに長い長い年月を掛けてやっとの事で手に入れた、
気持ちを分かち合える仲間に人を殺せと、
その術を教えてやると言われたのだ。

だが強い驚きは無かった。

少女から発せられる血の香りは、
生臭い野性の物では無い事は明白なのだから。

「解りました」

ライアは抱き締めていた小さな頭を一際強く引き寄せ、
眠りに着いた。


 震えていた。

つい数時間前に同じベッドから起き上がった相手は、
自分の命を一瞬で奪い去る存在に変わっている。

何処に居るか解らない。

解った所で反撃の余地も無く、
有った所で技術が無い。

ルイスの姿は完全に見えず、
極稀に風の音が聞こえたと思った時には何か鋭い物が飛来する。

全身から血を流し恐怖に震えながらも二本の脚で立ち、
得物を取り落とす事は無い。

だが故意に狙いを外している事は明白だった。

何故ならルイスが所属している組織より、
ライア用に動き易いローブを調達してきた事から殺す気は無いのだと解る。

暗殺者たる者、
獲物に不利な状況を作り出すのが当然の行為だからだ。

相手が誰であろうと、
殺すと決めた時点で情けなどあってはならない世界なのだ。

様々な憶測から、
仕舞いには眼を閉じていた。

苦痛に耐えるのは慣れている。

「殺されないと思って甘く見ているのか」

嘗めるなと言わんばかりに、
首筋に向かって鋭い手刀を放つ。

当然避ける事など出来ずに視界が大きく揺れたが、
何とか踏み止まった。

「ほお……」

ルイスは少しだけ感心してライアの目の前で静止した。

ヴォ――

誉めてやろうかと思った矢先、
握る事すらままならなかった剣が唸る。

突風と共に先程ルイスの居た場所を通過した。

剣技とはお世辞にも言えない無骨な太刀筋だが、
憎悪と恐怖、
そして確実な殺意に満ちていた。

素人独特の迷いが微塵も無い。

ルイスは思わず身震いした。

「必ずわたしがお前を強くしてやる」

その日の特訓は夜遅くまで続いた。


 「死ぬのが恐く無いのか」

ライアのお世辞にも大きいとは言えない胸元に、
顔を擦り寄せながらルイスは聞いた。

外は真っ暗だったが、
三日月の淡い光だけが二人を照らしている。

夜行性の虫と、
動物達の生活音が微かに聞こえる以外は静まり返っていた。

「恐くは無かったです。失う恐さが無いと、消えてしまってもいいと思えますから」

「今はあるのか」

「貴女と離れたくありません」

「そうか」

突然、
耳が痛くなる程の静けさに包まれた。

ライアはルイスの頭を少し引き寄せ、
作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉