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Blood Rose

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教訓



「足元にご注意を」

馬車から二人の男女が降りてくる。

後続も次々に到着しては正装した人物を降ろしていった。

先程降りたのは大柄な男性と純白のドレスに身を包んだ一際小柄の可憐な少女で、
夫婦というよりは親子に見える。

全体的には熟年層が多いがいずれも最低2人以上だ。

見るからに貴族の集まりといった雰囲気で、
一様に優雅な歩調で宮殿の中へ消えていく。

宮殿自体が異常なまでに大勢の警備兵に守られている事に加え、
皆が嗜み程度には剣の心得がある為2人以上での出席者に護衛は付かない。

この大陸にある各国の実権を握った全ての種族が集まっている事も珍しい。

これも他の四国に挟まれる形になっているにも関わらず、
他国と友好的に接しているバリエントグラム王国ならではの光景だ。

ドワーフが主な種族であるこの国は様々な産業を生み、
他のどの国に対してもお得意様であるのが最大の特徴である。

万一中立であるバリエントグラム王国に軍部を派遣しようものなら国際的に弾圧される事になる。

逆に言えば制圧してしまえば強大な技術力を独占する事も可能だが、
力、生命力、体力、寿命に優れたドワーフに高品質の兵器というだけでもはや驚異意外のなにものでも無い。

故に誰もそのリスクに見合わない行動を起こしていない。

一口に言えば国力。

もっと具体的に言えば軍備、経済、立地、全てにおいて絶妙なバランスで成り立つ国だ。

抑止力を有し対等な立場だからこそ成り立つ貿易力も見逃せない。

そして今回のような社交会の開催を受け入れる柔軟さもドワーフが栄える一つの要因だ。

と言っても今回の社交パーティは国の催しではなく、単純に貴族の道楽だ。

一種の接待でもあるのだが、
婦人や子息も同席している事からビジネスの話ばかりとはいかない。

立食形式で堅苦しい挨拶も無し。

少し開けた区画が設けられており、
その横では音楽を奏でている。

そこでダンスを楽しむ人、それを見て楽しむ人。

食事と酒を楽しむ人、談笑を楽しむ人。

様々な種族、様々な立場の、
様々な趣味趣向が入り混じっている。

一見して自由な空間であり、それは無秩序でもあった。

当の主催者と言えばこれだけの参加者を集められるだけあって顔は広く、名も知られている。

一人一人丁寧に挨拶していてはどう考えても時間が足りない。

転々と移動しながら挨拶しては他者の会話に参加する。

顔合わせをした者とは別の知り合いを発見すると一言断りを入れて次へ向かうといった具合だ。

その様子を見ていた一人の招待客は、
主催者の意図に疑問を持ち改めて招待状を眺めた。

当たり障りの無い挨拶文から始まり、
社交会への出席を促す内容が綴られている。

深く考えつつ首を傾げるも、
見知った顔と目が合ってそちらへの挨拶を優先する。

昔話で盛り上がるとその問いは頭から消えてしまった。

同じ疑問を抱いた他の者も結果的に、
きっと主催者もこういった自由な時間を楽しんでいるのだろうという結論に落ち着く。


 シャンデリアに照らされ、
ブロンドに輝く髪と純白のドレスに身を包んだ少女もそれと同じ疑問を持っていた。

父親か護衛だろうか、
連れの大柄な男は常に眉を寄せて気難しい顔をしている。

大方大切なお嬢様が様々な男から声を掛けられるからだろう。

しかし少女は満更でもなさそうで、
度々ダンスに誘われては会場を沸かせている。

次第に盛り上がりを見せるその区画に人が集まり始めた。

仕舞いには立食に利用していた机も一部奥へ引っ込める程になる。

複数人が同時に踊りだし、
雰囲気からか演奏家達も楽しそうだ。

そして主催者が輪の中に加わり、
より盛り上がりを見せはじめた。

少女は主催者に招待された事に対して短く礼を言うと、
一曲いかがかと踊り加わるよう促す。

主催者は遠慮しているが周りの招待客に促され少女の腰に腕を回した。

優雅な曲調に背中を押され自然と足が動く。

社交会を開いたのは主催者が人間関係に重きを置いてはいる事もあるのだが、
ダンスが好きなのも大きな要因だ。

先程の遠慮とは裏腹に非常に楽しそうな表情をしている。

その様子を見た少女はにっこりと微笑むと、
肩に置いた手を滑らせるように首に近付ける。

「……!」

主催者は一瞬驚愕して眉を上げたが、
すぐ平静に戻ってダンスを続ける。

首元のひんやりとした感触に思わず喉を鳴らした。

「先日、部下が数十人殺害されたでしょ。そう、心配した通り頭首の貴方を狙ったものよ」

非常に細身のナイフな為他の招待客には見えないようだが、
密着させた状態から引き斬るには些か頼りない得物だ。

しかしこうまでして直接接触してきた人物だ。

周囲に警備兵がいても恐れず殺害する可能性は十分にある。

「何が望みだ」

曲に掻き消される程度の声量で短く問う。

「一般国民相手の高利貸しを辞めなさい。あなたは十分な財産を築いたでしょう。
 もうそろそろ通常のビジネスに変えても不自由しないはずよ」

国が保有する宮殿を貸し切る程だ。

しかもこの主催者はヒューマンで、
ドワーフの国にある国営の宮殿を借りる事が出来る時点で相当なコネがあるか、
大金を払わなければとてもではないが不可能な話だ。

バリエントグラム王国自体は他国、
及び他国民も尊重する方針ではあるが、
少なくともそこらの貴族とは比べものにならない程の資産を持っている事は疑いようも無い。

「……ここで二つ返事をしたところで、結果が伴わなければいずれまた私を殺しに来るのか」

「そうなるわね」

「私が手を引いたとして、他の者が縄張りを広げ今より被害者が増えたらどうする。それでも結果的に私は殺されるのかね」

「秘書を付けて帳簿を随時確認させるわ」

「私を殺害しようとした者の仲間である疑いでその秘書を拘束するかもしれないぞ」

「連絡が来なくなれば確実に気付く。被害者の証言、あなたの裏帳簿、どちらもこっちの手の内だから自分の首を締める事になるわよ」

「裏帳簿……か。以前君達が侵入した区画にそんなも大事な物は置いていなかったよ。ほら、そろそろ曲が終わる」

主催者はそう言うと人混みの中に姿を消した。

一人になった少女もパートナーである男性の元に戻っていく。

「彼、なかなかのやり手ね」

「感心してる場合か。面倒な事にならなければいいがな」

二人はため息混じりに両手を広げおどけて見せると、
宮殿の奥へ消えていった。


 「お暇する前にテイトリ氏にご挨拶と、招待頂いたお礼の品を渡したいのですが」

そう言うといとも簡単に主催者の控室にたどり着く事が出来た。

入口の衛兵も営業スマイルを返して戸を開ける。

「また君か」

「この度はお招き頂き、誠に有り難うございました」

「いえこちらこそ、わざわざご足労いただきまして……君、席を外したまえ。少々込み入った話があってな」

「かしこまりました。御用命の際はお声を」

ここまで案内してくれた使用人は深々と礼をして部屋から出ていった。

「お暇しようと思いまして。お礼の品をお納め下さい」

分厚い紙の束だ。
作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉