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Blood Rose

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金額が綴られているが紙幣ではない。

テイトリは一瞬眉をひそめたが、すぐに呆れたといった様子で首を振った。

「先程も言ったが何が望みかね。ここまでするんだ、狙いがあるはずだろう」

「あなたの負け。こちらの条件を……な、何よ?」

ライアの後ろにいたロジェは肩に手を置いて言葉を止めると、一歩前に出て一礼する。

「手を組まないか」

突然の申し出にテイトリは目を丸くした。

「ここ数ヶ月、あんたの名は上がり資産は倍々に膨れ上がった」

「……それが、何だと言うんだ?」

このタイミングを見計らったかのように、
先程の使用人が軽くノックをして入室してきた。

「こいつが来てからだろう」

「ふむ、否定はしない」

「任期は明日までだったが、それを延ばしても構わんぞ?」

テイトリは眉間に皺を寄せて顎に手を当てた。

相手の思惑を嗅ぎ取ろうとロジェの瞳を覗き込んだまま沈黙する。

「……聞き方を変えよう。私に何を期待しているのだ」

「高利貸しを辞める事と中継役としての仕事振りだ」

「他意は……無いのだな」

ロジェは深く頷いてみせた。

「ふむ、確かに優秀な秘書が居るのはこちらとしても助かっている。
 しかし……いや、何でもない。どこの義賊だか知らんが面白そうじゃないか」

テイトリは忘れていた童心に帰ったかのように、
社交界での作り笑いには無かった笑顔で答える。

「そういう訳だパトリツィア。引き続き頼む」


 「はぁ……」

帰路についたライアは重いため息をついた。

「一仕事終わったってのに随分暗いな」

馬車の窓から見える夜景の眩しさに掻き消されそうなライアの肩に手を置く。

その手を掃い、不機嫌そうに振り返って睨みつけると口を開いた。

「全く流れが解らないんだけど、どういう事なのよ」

「ああ、パトリツィアはやつの秘書として半年ぐらい前から働いていた。
 あいつは組織の中でも経済の動きを読んだりする専門の部署にいたからな」

「あんな影薄いから暗殺専門だと思ってたわよ……」

「テイトリの親父からすれば高利貸しをしてたのは儲かりたいからじゃぁなく、
 スリルを味わうだけの言わば娯楽だったわけだ。うちと手を組む事で工作員としてのスリルと優秀な秘書を手に入れた訳だ」

「……はぁ、それならこの仕事自体パトリツィア一人で良かったんじゃないの」

「彼女はあくまでいち秘書としての役割を演じていて貰わにゃならん」

「なら結論から聞くわ。私が襲撃したりダンスを覚えたりしたのは何だったわけ?」

「あー、あれだ。経験を積ませる為と、新しい技術を身につける為だ」

「つまり、任務達成に必須でない事をやらせてたって訳なのよね……!」

「わかった。悪かった。殺害も辞さないという意向から上手くすれば利用出来るという方針変更が組織側からだされたんだ。
 敵を騙すなら味方からって事になったわけだな」

「訳わかんないのよ……!」

バリン!

ライアの一撃で馬車窓ガラスが砕けた。

「お、おい落ち着け!」

ドレスの少女とスーツの大男の馬車という狭い空間でのファイトクラブが今幕を開けた――


 「足元にご注意を」

「遠くまでご苦労。もう暗くなってきたのでな、気をつけて戻ってくれ」

ロジェは素早く降車して大股で歩きだした。

「ロジェ、待ちなさ……何よ」

「馬車の修理代金を……」

「私お金なんて……ちょ、ちょっとロジェぇぇえ!」
作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉