小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Blood Rose

INDEX|19ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

本来の目的自体が果たせていないので無駄な時間を浪費した事になる。

ただでさえ多かった衛兵を更に増員させる結果となってしまった。

「今回の成果はな、警戒が厳重過ぎるって事実だ」

ロジェは笑いながら言うとライアを肩に担ぎ直してその場を走り去った。

「ちょ、ちょっと、え、はぁ!?」


 その翌月、多少は警戒が解けたのかターゲットは普段の生活に戻りつつあった。

ライアとロジェは逆に普段の訓練とは別に新たな特訓を始める事となる。

「1、2、3、1、2、3」

ロジェの手拍子と掛け声に合わせてライアがぎこちなく踊っている。

少しずつリズムに乗ってきたと思えばドレスの裾を踏み付け、
舌打ちしつつ見事な側転で転倒を免れる。

「おい……頼むから真面目にやれよ」

「う、うるさいわね!」

「どうせ踏むならちっとは可愛らしくこけてくれ……」

ストレス最高潮のライアに対し、
文句を言うのも億劫になってきたロジェはほぼ同時にため息をついた。

それを皮切りにライアは胸元の短剣を抜き放つ。

それを投擲しようと手首を捻った瞬間手首を掴まれた。

ロジェの態度に苛立ったのかと思いきや、
部屋の入口に向かって殺意を向けている。

この部屋はリカッソの施設内で一番明るく広い、
ライアが初めてルファスと対決した場所だ。

その入口からライアは本能的に人の気配を感じた。

意識して感じられる程度のものではない。

まさに直感といった所だった。

「アーウェイ代行、いささか苦戦しているようですね」

扉が開けられるとそこにはフードのついた黒色のローブを目深に被った人物が立っている。

「そんな跳ねっ返り娘より、私の方がお役に立てると思いますよ?」

「まぁそう言うな。これでも努力は身になっているみたいだぞ」

親しげに話す二人を見てライアは不満げに口を開く。

「誰よ」

「これはこれは申し遅れました。私パトリツィアと申します。以後お見知りおきを」

その様子を見ているロジェはライアの手を離そうとはしない。

一瞬でも気を緩めようものならライアは確実に短剣を投げ付けるだろう。

「貴女が私より上手く踊れるですって?」

額に血管が飛び出しそうな程ライアの声は怒りに震えていた。

やはりと言うか、
半分面倒になりかけていたロジェの手が緩んだ隙に短剣はパトリツィア目掛けて放たれていた。

ローブ越しに胸元へ突き刺さる寸前、
金属を擦り合わせる官能的な音色と共にライアの短剣は宙を舞う。

「淑女のたしなみ、ですかね?」

パトリツィアも胸元に仕込んでいた短剣で応戦してみせた。

ロジェは心の中でなるほど、
と思わず呟いていた。

ライアは負けず嫌いで真っ直ぐな性格、
悪く言えば単純なところがある。

パトリツィアはそれを煽って成長を促そうというのだ。

ビュッーー

「なっ!?」

キュィン!

ライアの素早い剣撃を焦りながらも華麗に裁く。

火を付けたのはダンスに対してではなく、
なんと剣術の方だった。

予想外過ぎる展開にパトリツィアは防戦に徹する。

ロジェからすれば分かりきった事だったが、
いい機会だしストレス発散させてやろうと見守る事にした。

パトリツィアのそれは攻撃としてではなく、
防御に適した型の剣術だ。

邪魔になる盾ではなく、
護身用や予備の短剣を左手に持ち相手の攻撃を反らす、
いわゆるマンゴーシュというやつだ。

盾で受ける時ほど力がいらず、
相手の攻撃に対して軌道をずらすような動きから、
バランスやリズムを崩させたり手応えの無い当たりに不安を覚えて自然と大振りにさせる事にも繋がる。

予定通りライアは大振りが増え、
さらにはローブの裏地に隠していた短剣や腰に釣っている鉄鉤のみならず、
髪の中に仕込んでいた得物まで総動員して金属変成を始めた。

細い槍を何十本と用意したライアは次々とそれを投げ付ける。

軌道は真っ直ぐなので避ける事は容易だ。

「ちょ、ちょっとあんた、何考えてんのよ」

手持ちが無くなった時にはパトリツィアは剣を仕舞い、
ライアに向かって歩き出す。

肩に手を乗せて落ち着くように数回叩く。

その時。

ギンッ!

何重もの音が同時に木霊した。

先程投げたジャベリンが突き刺さったのとは反対の方向に伸びてライアの背後にある壁を貫く。

ライアは勿論の事目の前にいたパトリツィアも無傷だが、
大粒の涙を貯めて固まっている。

「錬金術師ってのはこういう離れ業を平気にやるから油断出来んな」

ロジェは両手を広げ、
呆れたように言うとその場を後にした。

ライアは優越感に浸りかけていたが、
本来のやらなければならない事を思い出してパトリツィアに指導を申し出る。

作品名:Blood Rose 作家名:日下部 葉