同窓会
ナカジー
一、双子
双子の男の子、まず惣平をお風呂に入れる。続いて耕平をお風呂に入れる。
惣平のほうがお湯を怖がらない。少しくらい顔にお湯がかかっても気にしない。鈍いだけなのか、強いのか、よく分からない。二人の子供を妻のアユに預けてから、ゆっくりと湯船につかる。
将来は二人でツートップなんてのもいいな。
そんなことを考える。
大学で、フットサルのサークルに入った。そこでアユと出会い、社会人になって三年目で結婚した。アユもフットサルをするので、結婚してからも二人でサークルOBがメインのフットサルのチームに入って汗を流していた。小学生のころからサッカーをしていた俺は、サークルではエースだった。
子供が出来て、さすがにアユはフットサルから離れたが、双子だと分かったときは、
「二人とも、サッカー好きになるかな?」
と、言っていた。
まだ、お座りもできない。ようやく寝返りができる程度の双子に向かって、
「ママがリフティング教えてあげる」と寝顔に話しかける。
「前にきてた同窓会の話、」とアユが俺に言った。「また、はがきが着いてたよ」
「ああ、案内、招待状?どっちやろ」
「どっちでも」と言いながら、案内状を渡してくれた。
封筒の宛名に 中島徹平様 とプリントアウトしてある。
返信用のはがきも入っていて、案内状もあった。
日時 九月二十三日
場所 三峡庵
「どこ、これ」
「住所書いてるでしょ」
「携帯で調べろって、ことやな」
「友達、みんな来るの?」
「前に、幸一から電話があって、行く?みたいなこと言うてたけど、俺は行くよって言ったら、じゃあ俺も行くって言ってたけど」
「よく分からないけど、二人とも参加するってこと?」
「うん、そう」
二、プール
中学三年生のクラス替えで、俺は幸一とライチと同じクラスになった。幸一とライチは野球部で、一年生の時はグランドの整地のことでちょっと揉めたりしたこともあったが、二年生になってすぐ幸一が話しかけてきて三人は仲良くなった。
一年生のころから同じクラスで仲が良かったバスケ部のアキが、夏休み直前の短縮授業のプールの時間に、俺の肩をたたいて言った。
「ナカジー、あれ」
アキが指さした向こうには、数人の男子がプールの端に集まっていた。
「何してるん?あいつら」
「分からん。なんか三宅、やられてる」
「やられてるって、何?けんか?」
小学生のころ柔道を習っていた西脇が三宅の頭を抑えてプールに沈めているように見えた。他にレイジとカツもいた。レイジは背は高いがひょろっと細い。手足も長くてアメンボのようだった。カツは小学生のころから力が強く、喧嘩も強かった。父親がいなくて、母親は小学校の近くの商店街の外れでスナックをしていた。
三宅が苦しそうにプールから頭を出すと、三人は大声で笑った。
ばしゃばしゃと暴れる三宅は溺れているようにも見えた。アキはプールサイドにいた体育教師の野田に言った。
「先生、あれ、止めたほうがええんちゃう?」
野田はゆっくりと三宅を取り囲む男子生徒たちへ近づいて言った。
「お前ら、何してる。遊んでんと、早く5本クロールで泳げ」
俺はアキを見て言った。「あれ、遊んでたんか?」
三、貧乏
小学六年生のときの担任は女の先生だった。
若くてピアノの上手な吉川先生は、厳しい部分もあって、宿題を忘れると張り手をされたりもした。
カツと俺は五年と六年生の時に同じクラスだった。五年生の時までは仲が良かった。五年生の夏休みにそれまで一緒に練習していたサッカーのチームをカツは突然辞めた。カツの家は父親がいなくて貧乏だから、俺はずっと小さくなったスパイクをカツに譲っていた。カツはもともと勉強が苦手で、宿題もよく忘れて、吉川先生から張り手をもらっていた。
夏休みが始まって一番最初の日曜日、朝からサッカーの練習があった。俺もカツも自転車でグランドに行き、練習が始まる前に二人でパス練習をしていた。
六年生が数人で俺とカツの所へ来て、ボールを渡せと言った。
カツはボールバッグを指さして、「あそこに、いっぱいあるやろ」と言った。
「なんや、お前、五年のくせに敬語も知らんのか」
俺は、カツと二人で使っていたボールを六年生に渡した。そしてカツの肩を抱いて、「俺らが、ボールバッグから新しいボール出そう」と提案した。その時はカツも我慢した。
そしてその後、ボールバッグから新しいボールを取り出しているカツの背中に六年生の蹴ったボールが直撃した。
カツは六年生の前に立った。
六年生はカツの胸を小突いて言った。
「お前、スパイク、ボロボロやんけ」
「知ってんぞ、お前はいつも中島からスパイク貰ってるんやろ」
「金、無いんやったら、もうクラブやめろや」
「ユニフォーム、新しいのん買って貰われへ」
そこまで言いかけた相手に、カツは殴りかかっていた。異変に気づいていたコーチがすぐに駆けつけて、誰も怪我はしなかったが、そのままカツは帰っていき、二度と練習に来ることがなかった。
夏休みが終わって、宿題を提出するとき、カツは宿題を一つもしていなかった。
吉川先生は強い口調でカツを責めた。
カツは、すごく小さな声で、もしかすると俺にしか聞こえていないかもしれない声で、言った。
「貧乏やから」
それは宿題をしていない答えにはなっていない。言い訳にさえなっていない。
吉川先生に、その言葉が聞こえていたのかどうか、分からない。吉川先生は途中から泣いていた。そして最後には泣きながらカツに張り手をした。