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同窓会

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ライチ




一、案内状

 案内状が届いた。
「同窓会?」
 リリカがテーブルの上の案内状を見て聞いた。
「高校?大学?」
「中学の」
 首元がゆったりしている薄手の部屋着から大きな胸が零れ落ちそうになっている。部屋の中ではブラを外している。リリカは基本的にブラが嫌いのようで買い物に出かけているときも時々ブラをしていないようだった。
 しっかりと上を向いた乳首が透けて見えていた。
「ライチ、行くの?」
「行くよ」
「元カノとか、会いに?」
「中学のときは、彼女とかおれへんかった。男子とばっかり遊びまくってた」
 案内状を送ってきた名前を見た。
 顔が思い出せなかった。
「誰や、こいつ」



二、野球部

 夏休みの練習は朝から昼の2時まで。
 一年生は朝7時に来てグランドを整地する。俺たち三年生は8時からのアップに間に合えばいい。12時までグランドで練習して、お昼休み。1時から2時までは腕立てや腹筋など筋力トレーニングをする。
 サッカー部が12時からグランドの整地や準備を始めて、午後のグランドを使用する。
 大抵、どこの中学校でも同じようなシステムで狭いグランドを使うように、第四中学も時間でグランドを分け合っている。
 昼の練習が終わって、水道で顔を洗っていると、サッカー部の連中が部室からぞろぞろと出てきた。
「今日は暑いな、ライチ」
 水道の水を頭からかぶっていた俺の後ろで、サッカー部の練習用シャツを着たナカジーの少し掠れたハイトーンの声がした。
 ライチ。藤原太一、小学生の時に担任の先生が「ふじわらいち」と言い損ねたときから、ずっとライチと呼ばれている。果物のライチとは関係ないが、いちいち説明もしないので大抵の人間は果物のライチからとったニックネームだと思い込んでいる。
「ああ、今日も、暑い」
 吹奏楽部の練習する宇宙戦艦ヤマトのイントロが聞こえている。
「今日、図書室解放、行くん?幸一が誘ってたやつ」
「行くよ。練習終わったら、図書室で宿題するねん」
「涼しいからな」
「図書室から、日射病になりかけるお前を見とくわ」
「危ないと思ったら、猛ダッシュで助けに来てくれよ」
「無理や、涼しい図書室からは助けに行かれへん」
 ナカジーは笑いながら、グランドで待つサッカー部員たちの所へ走って行った。上半身も裸になり、スパイクも靴下も脱ぎ、頭からホースで水をかぶった。そのまま部室へ行き、パンツからすべて着替えて同じ野球部員の幸一とケンの三人で図書室へ向かった。


三、図書室

「アカン、天国や」
 幸一が言った。
 図書室の大きな白い机に張り付くようにして涼しい空間を堪能する。
 乾燥した空気と紙の匂いが図書室に独特の空間を作る。ユニフォームや用具が入った黒いバッグの他に、夏休みの宿題を入れたショルダーバッグを持ってきている。足元に黒いバッグを置き、机の上にショルダーバッグを置く。
「図書室が天国やったら、あんまり面白い場所じゃないよな、天国って」
 ケンが言う。
「天国って面白い場所なん?」俺が聞くと、
「知らん」机に張り付いたままの幸一が答えた。
 廊下から楽しそうな話し声がして、加奈とミキと藍子が図書室へ入ってきた。
「あ、来た」と幸一が三人の女子に手を振る。
 幸一がミキと図書室で宿題をする約束をしていた。だから俺もケンも喜んで図書室に来た。俺の隣に加奈が座る。いつも、大抵、加奈が俺の隣にいる。
 思い違いとか、勝手な思い込みとか、自意識過剰とか、いろいろ自分でも考えるが、いつも、大抵、加奈は俺のそばにいる。
 誰にも言ったことはないが、俺もそれを期待している。
 ショルダーバッグを足元に置いて、机の上に宿題を広げて、ペンケースから消しゴムとシャーペンを取り出して、練習の汗を水道水で流した火照った体で、エアコンが効いた涼しい図書室の隣に座っている加奈をちらっとだけ見て、笑いが込み上げてきた。
 案外、図書室は天国かもしれない。
 そんな天国の図書室解放は4時30分まで。
 4時前には、男三人も女三人も集中力がなくなっていた。
「三宅、いじめられてるのん、知ってる?」藍子が言った。
「え?うそ。誰に?」とケン。
「西脇とか」「マジか」「私も聞いた」「どんなん、されてるの?」「あ、プールでじゃれてるの、見たかも」「殴られてるの、見たとか」「喧嘩ちゃうん?」「三宅が喧嘩するか?」「あいつ、弟の事、めっちゃ殴るで」「うそ」「いやマジで」「大人しそうに見えるのにな」「そういう人ほど、なんかキレたら怖いやん」「こわっ」「マジ怖い」


四、期待

 案内状に書かれている日付を見た。あと一か月もない。
 先生も呼んでいるから、ぜひ出席してほしいと書いてある。別に先生には会いたくない。
 俺の頭には加奈の顔が浮かんでいた。
「ライチ、今日の夜、どうする?」
 リリカが覗き込むようにして聞いてきた。
「夜?」
「今日、お外に食べに行く約束してたよ」
「ああ、何が食べたい?っていうか、何が飲みたい?ビール?ワイン?」
 案内状が届く前に、『同窓会を開こうと思います。』と、書いた手紙が往復はがきで届いた。
 母ちゃんから電話があって、同窓会の案内が届いてるよ。と言われた。
「何月何日って書いてる?」
 と聞くと、
「何月何日がいいですかって書いてるよ」
 と、母ちゃんが言う。
「なに、それ?」
「みんなが集まれる日にしたいから、いつ頃なら集まれますか?って」
「ご丁寧やな」
「封筒に入れて、太一の家に送ろうか?」
「いや、いつでも出席するって書いて、返事しといて。あ、ほんで、俺の今の住所も書いといて」
 その時は、誰からの案内状なのか気にもしなかった。
「ワイン。ワインが飲みたい。この間、一緒に行った、串カツのバーみたいな、オシャレなお店。あそこがいい」
「ああ、いいな。あそこ。うん」
 同窓会の案内状をテーブルに置いた。
 差出人 三宅秀和
 あ、あの三宅か。
 思い出した。

作品名:同窓会 作家名:子龍