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コスモス

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 それ以来、私はそのビルへ行っていないし、タカやんがそのビルに入っていったという話を聞いたことも実際見たこともない。
 くだらない。
 そういったタカやんの姿が、鮮明に思い出された。
 あのときのタカやんは、いつもの明るく、笑顔の彼とは別人だった。今さら、そんなことを思い出したところで、どうしようもないのに。


 タカやんの自殺は、学校全体に動揺を与えたが、それも一週間ほどであまりにもあっさりとそれまでの生活に戻っていった。クラスでは今でも話題にのぼることはあっても、それは自殺の理由を勘繰るような形であり、悲しみにくれるようなものではなくなっていた。
 誰が持ってきたのか、淡い桃色の花瓶にコスモスの花が活けられていた。一番窓側の後ろのタカやんが座っていた席にそれは置かれている。みんなは無意識か、故意的か、視線をそこに向けようとしない。
 孤立した空間、クラスから見放された、時が止まってしまった空間。
 あのビルの、灰色の壁、冷たい階段を思い出させた。
「ねーぇ、静香。今日、ミーコと皐月とジャンカラ寄ってくけど行く?」
 掃除当番で黒板を消していた私に、綾香が声を掛けてきた。サムライウーマンの匂いが、その場にからみつく。
「うん、行くー」
 もうちょっとで終わるから、と綾香たちに下駄箱のところで待っていてくれるように云った。
「ちょっと、ちゃんと掃除してよ」
 窓の方を見ると、クラスで嫌味で有名な雅恵が、高橋椿ににじり寄っているところだった。
「いつも外ばっか見て掃除さぼって。そんな乙女ちっくな格好して男に色目でも向けてんのかよ!」
 大体、そんな格好目障りなんだよ、と罵倒は続くが、誰もそれを止めようとはしない。高橋椿は、何も云わずに黙って下を向いている。雅恵よりも頭一つ分小さく華奢な高橋椿は、余計に頼りなく見えた。ロリータのはみだしっ子。制服をフリフリに改造しているせいで、生徒からも先生からも白い目で見られている。私も、関わらないでおこうと、何も云わない。
 そう云えば、タカやんだけは高橋椿に対して普通に接していた気がする。積極的に話しかけていたわけではなかったけれど、おはようとか、バイバイとか、本当に普通だった。タカやんは、人を見かけで差別したり、周りに流されるようなヤツではなかった。
作品名:コスモス 作家名:紅月一花