コスモス
タカやんの通夜は、地元の公民館でおこなわれた。高校のクラスメートだけでなく、中学のときの同期もたくさん来ていた。みんな、少しずつ雰囲気が変わっている。こんなシチュエーションで再会するとは、誰が予測できただろう。
隆、隆、半狂乱になりながら、泣き叫ぶタカやんのお母さんの声が場に痛く響いた。あちらこちらから、タカやんの自殺が信じられないといった内容のささやき合いが聞こえた。
「飛び降りだったって」
可菜子の泣きはらした、真っ赤な目が、私に云った。
「あのビルから」
私も、たくさん泣いた。
タカやんが入っている棺は閉じられたまま、最後まで顔を見ることはできなかった。十階という高さからの飛び降りで、損傷が激しかったらしいと、オバサンたちの噂話を耳にした。
あのビル。
それは、地元の子ならば誰でもそれだけでわかる、廃れ荒れた無人ビルだ。三年前にどこかの中小企業が入っていたのが倒産して、それがそのままになっているのだ。平和な田舎の町だからそこをアジトに溜まるような不良がいるわけでもなく、落書きこそされているものの、鍵はかかったまま誰も入れなくなっていた。
たぶん、そこに初めて入ったのはタカやんだと思う。
手先の器用なタカやんは、針金でちょちょっと窓を開けてしまったのだ。一緒に入ったのは、私が初めてだった。特に私だったことには意味はない。たまたま、帰り道に出会ったというだけだ。
ダンボールやら発泡スチロールやらが散乱しているものの、デスクも棚も、そのままの形ですべてが一瞬にして凍結したかのように、時が過ぎているのを感じさせなかった。灰色の冷たいひんやりとした空間は、時間という無常の世界から見放されていた。エレベーターは動かないから、階段で十階まで上った。テニスクラブに所属していた私は、それくらいなんともなかったけれど、スポーツをしていないタカやんは、とてもしんどそうだった。
十階の、社長室として使われていた特別な一室の、壁一面ガラス張りの窓から外を覗くと、小さな高い建物なんかない町だから、向こうの方まで見渡せた。
「くだらない」
ぽつりと、タカやんがそう云ったのを、私は聞いていた。でも、そのときは何も云わなかった。
私たちは他愛のない話を二時間くらいして、そのビルを出たと思う。