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コスモス

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コスモス・1


 そのメールがきたとき、私と綾香は松屋で豚丼を食べていた。
一時の狂牛病騒ぎもおさまって、牛丼屋にあるべき牛丼は戻ったものの、綾香も私もその隙間を埋めるべく加わった豚丼の方が気に入って、いつも決まって豚丼を頼んでいる。
 その日も、放課後にブラブラとショッピング施設を回ったあと、少し早めの夕食を食べようと、松屋に入ったのだ。一番端っこの席を陣取り、「豚丼つゆだくだく二つねー」と、綾香が云った。まず、私たちがすることといえば、色が褪せてボロボロになった学校指定の皮の鞄から携帯電話と化粧ポーチを取り出すことだ。お揃いのポーチからそれぞれ鏡―――私はANASUIで綾香がPinky Girls―――を取り出して、化粧直しを始めた。
 数分と経たないうちに豚丼がきて、私は箸を割って綾香に渡した。「さっすが、静香は気がきくね」と、豚丼をぐちゃぐちゃに混ぜ始めた。綾香は、何でも混ぜたがる。親子丼もカレーも、ご飯に何かがついていれば、必ず混ぜるのだ。
 恋バナとか、くだらない噂話とか、取り留めなく話をするから、なかなか箸は進まない。メールがきたのはそんなときだった。
 Crystal Kayの「恋に落ちたら」の着うたが鳴り響いた。これが鳴るときは、高校の友達からだ。
「なに、誰よ〜男?」
 ニマニマと意地の悪い笑みを浮かべて、綾香が私の携帯を覗き込んだ。相手は同じクラスの可菜子だった。
「違う、可菜子だ」
 開いたメールを見た瞬間、その、そこに書かれたたった一行の文章の意味が、理解できなかった。
「何て何て?」
 身を乗り出してきた綾香から、甘い香りがした。綾香が愛用しているサムライウーマン。
「タカやんが自殺したって」
 向かいに座るおじさんの咀嚼音が、やけにリアルに耳に響いた。


 タカやんは、可菜子と三人同じ中学から高校にあがった仲間だった。二年にあがって、三人ともが同じクラスになったのは、すごい偶然だったと思う。普段はそれほど目立つわけでもないが、料理がとても上手で、調理実習のときは一躍スターだった。明るいいいヤツで、みんなに好かれていたタカやん。
 制服姿で集ったクラスメートは、いつもと違って表情が重く、時々すすり泣きが聞こえた。
作品名:コスモス 作家名:紅月一花