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最後の魔法使い 第六章 『決断』

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「そうとも。」ジュダは手に持っていたノートを、ぐいとアレンの方へよこした。「アレン、このノートは君にあげよう。私の魔法使いに関する研究が写してある。これからの旅路、きっと役に立つはずだ。」
「あ…ありがとうございます。」そう言って、アレンは重いノートを受け取った。ぱらぱらとめくると、最初から最後のページまで、細かい文字でびっしりと魔法使いに関する事柄が書かれていた。
旅路、と聞き、アレンははっとした。ここ何日も平和だったが、今自分は逃亡中の身なのである。このまま、ここでジュダの世話になるわけにはいかないのだ。急に現実が大きな不安となってのしかかった。
ジュダはアレンに座るように言った。アレンはノートを大事に手に抱えたまま、そばのソファに座った。ジュダは向かい合わせになるように椅子を引っ張ってくると、それに腰かけた。
「さて、決断の時が来たようだよ、アレン・フォン・ジアーズ。」力強い口調でジュダが言った。「君には二つの選択肢がある。あの4人の魔法使いのように、魔法を捨ててこの国を出るか。それとも一生、あちこちを転々として、自分を偽って逃げ続けるか。君次第だ。どちらをとっても、もうロウアーウエストには帰れない。今までの家族や友人に会うこともないだろう。国外に出る前につかまって、殺されるかもしれない。逃げ続けられるかも疑問だ。でも、どっちかしかないんだ。」
アレンはごくりと息を飲んだ。嗚呼、ついにこの時が来てしまった、とアレンは思った。つかの間の平穏の終わりを告げられた気分だった。
「これは君の母親からの伝言でもあるんだ。」ジュダが言った。「君の母親はルアーン・シェドリーという。ルアーンは、マチルダに君を預けたとき、こう言い残した。」ジュダはアレンに開くように言った。開いたページに、細かな文字で『母の言葉』が書かれていた。
「マチルダが一言一句間違いのないように、書き残しておいてくれたんだよ。」ジュダが言った。

「アレンがこのまま、あなたのもとで、ただのロウアーの子供として生きてくれることが私の願いよ。本当はね、一緒に連れて行きたいの。でも、『あの魔法』を受けつけないということは、この子は小さいながらに、自分を捨てることを拒絶してるのだと思うわ。けれど、『魔法使い』ということは、この国では一種の呪いよ。いつこの子の素性がばれて、普通の子としての幸せを奪われてしまうかわからない。お願いがあるの。もし、この子が私達と同じように、政府やアッパーに追い詰められてしまったら、その時はこの子自身に選ばせてあげて。魔法を捨ててこの国を出るか、一生逃げ隠れるか。たった二つの選択肢だけど、私にあげられるのはそれくらい。母親らしいこともできなくて、ごめんなさい。」


アレンは、最後の言葉は自分に言ったのだろうと思った。ルアーンの華奢な顔が脳裏にちらついた。その下にはさらに続きがあった。ジュダが読み進めるように促した。


「長老は『魔法使いの書』をどこか安全な場所に隠すっておっしゃっていたわ。どちらを選ぶにしても、アレンはきっとそれが必要になる。探しに行かなければならない時が来る。この子が運命を受け入れたとき、『書』はそのありかを示してくれるでしょう。『書』は間違った人のもとではその姿を見せないわ。それに従うように、この子に伝えて。それから…ごめんなさい、もう行かないといけないわ。時間がないの。マチルダ、あなただから、わたし、安心してこの子を預けていけるのよ。ねぇ…私が確かにこの子を愛していたって、この子が知る時が来るかしら?さようなら、マチルダ…さようなら、アレン・シェドリー。」