二人の王女(3)
「害がないのであれば、この者を連れてゆこう。この窮地を知る何者かのお告げによって来た身、何か意味があるかもしれない」
そう云うと、二人の男性が強く頷いた。
「アスカ、私はマルグリットだ。この者はアーク、我が国の優秀な騎士だ」
アーク、と云われた長髪の男性は軽く頭を下げた。
「そして、こちらはシェハ。占術師だ」
シェハは、手を胸に置き、頭を垂れた。
「せんじゅつし?」
聞き慣れない言葉に、あすかは思わず聞き返した。
「占術師を知らぬのか。占術師はあらゆる毒や呪術から民を守る者だ。おまえ、本当にこの地の人間ではないようだな」
毒やら呪術やら物騒な言葉が並ぶことが、普段読んでいる童話を思わせた。しかし、ドキドキするような夢の世界を連想させることはない。
「あなたは、王女様なの?」
あすかが聞くと、マルグリットが胸に手を置いて答えた。
「私はアズベリー王国の第一王女、マルグリット・アズベリーだ。王女でもあり、国の剣としての騎士でもある」
アズベリー王国、騎士…話があまりにも突飛過ぎて、咀嚼しきれない。あすかは言葉にできず、呆然とマルグリットを見つめた。
「それにしてもアスカ、おまえの服装はあまりにも滑稽だ。防御能力も攻撃能力もないと見えるが」
「ぼ、防御能力?」
あすかは、思わず纏っている制服を見て云った。
「ふ、普通の制服だし、べつに襲われることとか想定してないし…」
「制服?そんなぺらぺらの衣装がか。誰かに斬りつけられたらどうするのだ?」
マルグリットはあすかの服の裾を掴んで云った。
「べつに、斬りつけられることは想定されてないので…」
「こんな軽装で、我々の旅を共にするなど、危険過ぎる」
マルグリットが云うと、シェハが「私にできる程度の占術を掛けておきましょう」と、数枚の札を取り出してあたしに向けた。
次の瞬間、身体を締め付けられるような感覚に陥った。まるで血圧測定で腕に器具を装着しているときのように、ぐんぐんと圧力が掛かっていく。
―――息が、でき、ない…
そう思った瞬間、突然その縛りが解けた。
「これで、多少の毒や呪術からは守られるでしょう」
シェハがそう云うと、あすかは一体何が変わったものかと、身に纏った制服をまじまじと見てみたが、違いがわからなかった。
「それだけでは、この土地では寒かろう。私のマントを貸そう」