二人の王女(3)
「な…何者と聞かれても…図書室で借りた本から光が出てて、変な声にアズベリーへ行けって云われて、それで光の中に入ったらあの森の中にいて…」
自分でも要領を得ない話し方だと思った。しかし、女性は「アズベリーへ行けと、そう云ったのか?」と真剣な面持ちで聞いた。あすかは、なんとかあの本の低い声が云っていたことを思い出しながら云った。
「あ、アズベリーの血を引く者って、云われて、二人の女王が見知るとか、もう一人の王女が窮地に立ってるとかなんとかって、そう云われたから…」
そうあすかが云うと、女性は残る二人の男性と顔を見合わせた。三人とも、真剣な面持ちながらも、戸惑いを含んだ表情で、言葉を探しているようだった。口を開いたのは、長い髪を後ろで束ねた男性だった。
「この者の云うことは私にはよくわからないが、この容姿の似よう、何の関係もないとは思えない。それに何より、この瞳の色が気になる」
女性は云った。
「確かに、この紫の瞳の色は王家の血を引く印だ。しかし、アズベリーには私以外に王女はいない。それにこのけったいな衣装、見たこともない。シェハ、おまえ何かわかるか?」
シェハと呼ばれた短髪の男性は、あすかの顔を見ながら、手に何かカードのようなものを持ちながら、祈るように黙り込んだ。しばらくして、口を開いた。
「我が占術では、何の反応も見られません。我らが知る種類の人間ではないことになります」
「つまりは、未開の地の人間ということか?」
女性が云うと、険しい表情でシェハと云う男性は「そういうことになります」と、頷くように云った。
「タカトオアスカと云ったな。ファーストネームは何だ?」
「ふぁ、ファーストネーム?」
あすかは記憶を思い起こし、名字と名前のうち名前の方を指していることを思い出した。
「あすかです」
「では、アスカ。おまえはアズベリーへ行けと云われたというのだな。二人の女王が見知る、としてもう一人の王女が窮地に立っていると…」
「そ、そうです」
「もしこの話が本当だとすれば、二人の女王と云うのは、マルグリット様とこのアスカという者を指しましょう。私の占術上、この者に今のところ毒も呪術も敵対心も見当たりませぬ。害はないかと…」
シェハと云う男性が、女性を見つめて云った。女性はもう一人の長髪の男性と目を合わせ、少し間を置いて云った。