二人の王女(3)
「早く乗るんだ!」
女性の声だった。腕を差し出され、あすかは思わずその手を食いつくようにして握りしめた。その女性によって馬の上へと引き上げられる。そのとき、女性と初めて目が合った。
驚きに声を上げたのは、あすかだけではなかった。その女性もまた、驚愕の目でこちらを見ていた。
同じ顔…
しかし、その驚きに目を丸くしている時間はなかった。ずっと向こうにいる同じ馬に股がる人が、「マルグリー!何やってるんだ!」と、声を上げた。マルグリーと云われたその女性は、はっと我に返り、「しっかり掴まるんだ!」とあすかに云った。あすかは女性の腰にしがみつくようにすると、女性は馬の踵を返させ、元来た道を走り始めた。
「アーク、シェハ、このまま森を突っ切るぞ!」
はっ、と二人の男声の声がした。そして、もの凄いスピードで樹々の間をすり抜け、果てなどあるのかと思わせるような森の中を突っ走った。
あすかはただただ何もわからないまま、女性にしがみついていた。同じ顔の女性…夢にしては出来過ぎたリアルさ…
どれだけの時間をこうしていたかわからない。何時間も経ったような気もすれば、まだ数分しか経っていないような気さえする。果ての見えなかった森を抜け、多くの石が積み上げられた場所に出た。そこで、ようやく馬の足が止まった。
後ろから追っていた二人の馬に股がった人たちもまた、馬の足を止めた。片割れの男性が、「なんとか切り抜けたな…」と、安堵の声を上げた。
女性が再び振り返り、あすかを厳しい目で見つめた。
「おまえ、何者だ」
「え…」
あすかが突然の厳しい声に、おののいているところに、二人の男性が近くまで歩み寄ってきた。そして、あすかの顔を見て驚きに目を丸くさせた。
「これは…」
目の前の女性は、あすかと瓜二つといって云いほど、よく似ていた。髪の色が、あすかは黒に対して、女性は美しい赤茶色であったが、それを除けば双子のようであった。
瞳の色も、あすかと同じ、深い紫をしていた。
「どこの国の人間だ」
女性は再び、厳しい口調であすかに聞いた。恐怖に詰まりながらも、あすかは声を振り絞るようにして云った。
「た…高遠あすか…日本人です」
「ニホン?聞いたことがないな。おまえ、何者だ?どうしてエリオンの森にいた?」
女性はまるで突っ掛かるような強い姿勢で、あすかを圧倒した。