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二人の王女(3)

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 その小さな人はじりじりとあすかの方へと近づいてきた。そこから逃げるように退歩しながら云った。
「高遠あすかよ」
「タカトオアスカ、聞いたことのない名前だねぇ。だが、王女の顔そっくりじゃないか」
「あなた、誰?」
 あすかが恐る恐る聞くと、小さな人はまたケラケラと笑い声を立てた。
「ふざけているのかわからないが、いいよ、教えてやろう。私は精霊だ」
「精霊?」
 精霊と云われて、まったくピンとこなかった。精霊と云えば、神様のようなもので、とても神聖で美しいイメージがある。しかし、目の前に居るこの小さな人は、精霊というよりも悪魔に近い気味の悪さを醸し出している。
「そうさ、この森の樹に閉じ込められた精霊さ」

 そのときだった。あちこちの樹々に光が灯り始めた。
「まずい、もう気付きやがったか」
 精霊は突如紫の長い舌をじゅるりと鳴らして、あすかに向き直った。
「得体の知れない身体ではありそうだが、この際贅沢は云っていられん」
 そう云うと、突然形相を変えて牙を剥き出し、あすかに飛びかかってきた。
 あすかは悲鳴を上げ、間一髪のところでその牙から免れた。地面に尻餅を付き、鈍い痛みを覚えたが、のうのうと座り込んでいるわけにはいかなかった。再び、精霊があすかに襲いかかってきたのだ。何が何かさからないままに、あすかは身を翻し、とにかく駆け出した。

 振り返る勇気もないままに、とにかく樹々の間をすり抜けるようにして走った。そのうち、辺りの樹々に明かりが灯っていくのがわかった。そして、あちこちから「人がいるぞ!」「人だ!」と、あすかを指すらしい言葉が聞こえ始めた。この明かりの灯り具合から、直感で精霊の仲間だとわかった。

 ―――こ、殺される…

 泣いている余裕さえなかった。恐怖よりも逃げなくてはという本能から、あすかはただ一心に走り続けた。どんどん、周囲の光が増えていく。夢なら醒めてよ!と叫びながら、とにかく走り続けた。

 そのときだった。
「人だ!」と、精霊の声とは違った声が聞こえてきた。顔を起してみると、前に馬に股がる精霊ではない人の姿が見えた。
「た、助けて!」
 あすかはそれだけ叫ぶと、その人の方へ目指し、駆け出した。馬に股がる人は、どうやら複数人らしかった。そのうちの一人が、馬を走らせ、こちらへ向かってくる。顔を見るよりも先に、その馬が目の前へやってきた。
作品名:二人の王女(3) 作家名:紅月一花