二人の王女(3)
想像通り、地面には草が生い茂り、周りは空も見えないほどの高い樹々が立ち連ねていた。
「…どこ、ここ?」
なんとか足を立てて立ち上がってみたが、見通せる限りすべてが同じような樹々が広がるばかりだった。
葉の隙間から空が見え、そこには見たこともないようなおびただしい数の星が散りばめられていた。時刻が夜であることがわかる。
人気がまったくなかった。人気どころか、虫一匹さえ、生物の息吹が感じられない。あすかは、何が起こっているのかわからず、挙動不審に辺りを見回しながら辺りを歩いた。
「どうなってるの?何なのここ?」
誰かいないかと歩を進めてみるが、歩いても歩いても樹々ばかりで、それ以外に何も見つからない。だんだん、恐怖心ばかりが募り始めていた。
「寒い…」
ひんやりとした風が、半袖のシャツから伸びた肌にあたる。寒さや痛さなど、夢の中でこんなにリアルを感じるものなのかと、あすかは強い不安に駆られていた。
「こんな夢、嫌なんだけど…早く醒めないかな」
恐怖心から、ぶつぶつと言葉を発してみる。
「誰かいませんかぁ?」
幾度と声をあげたが、返事は返ってこなかった。
「なによ、この夢…!ちょっとぉ…早く目を醒してよぉ、あたし…」
怖さと、独ぼっちで未開の地に投げ出された不安に、思わず目頭が熱くなっていくのを感じた。そのときだった。
「さっきからうるさいわねー、ぶつぶつぶつぶつヒトリゴト」
振り返ってみると、眩い光が目に入った。先ほどまでは確かになかった。その光の中心に、あすかよりも二周りほど小さな人が、宙に浮くような形で佇んでいた。
「あら、誰かと思ってみたらアズベリーの王女じゃないか」
よく見てみると、人間でないことがわかった。顔が異常なほどに小さく、耳だけが突出して大きく、そして先が尖っている。目が異常に大きく見開かれ、口は裂けるような形状だ。どこか不気味な雰囲気を醸し出していたが、このような形状を童話でよく目にする。
「あなた、妖精?」
あすかは目をぱちくりさせて聞くと、その小さな人はケラケラと不気味な笑い声を立てながら云った。
「アズベリーの由緒正しきマルグリット王女ともあろう人が、そんな間抜けな質問をするなんて、嘆かわしいにも程があるわ!」
「あたしは王女じゃないわ、それにマルグリットという名前でもないもの」
「じゃぁ、誰だって云うんだい」