【無幻真天楼第二部・第二回・弐】小さなこいの唄
その【まさか】で烏倶婆迦は乾闥婆の寝台に座っていた
「いい匂い」
ぐるっと部屋の中を見渡した烏倶婆迦がお茶を注いでいる乾闥婆を見ると寝台から飛び降りて駆け寄る
「こっちもいい匂い」
「そうですか? 熱いですから気をつけてくださいね」
「うん」
長い袖で器用に湯飲みを持った烏倶婆迦
「…お面…取らないと飲めないんじゃないですか?;」
「大丈夫だよ」
そう言った烏倶婆迦がゴソゴソと取り出したのはストロー
「何ですか? それ…」
「穴あいてて吸えるの」
烏倶婆迦がストローを湯飲みにさすとちびちびとゆっくりお茶を飲む
乾闥婆も椅子に腰かけて変わった飲み方をする烏倶婆迦を微笑みながら見ていた
しばらくして烏倶婆迦が顔を乾闥婆に向けた
「どうしました?」
「おいちゃん乾闥婆が好き。乾闥婆は?」
「え…?」
乾闥婆がきょとんとした顔で止まった
「乾闥婆は誰が好き?」
「僕…ですか…?」
頷いた烏倶婆迦
乾闥婆が少し目を伏せた
「僕は…」
「迦楼羅?」
烏倶婆迦が口にした名前に乾闥婆が伏せていた目を大きくする
「乾闥婆は迦楼羅が好き?」
「…っ…僕は…っ」
「おいちゃんねハルミママが好き。でもハルミママの一番好きな人は竜なんだ。でもハルミママはおいちゃんも好きだっていってた」
「それは…ハルミママさんと竜は夫婦で…僕と…迦楼羅は…」
乾闥婆が自分の胸元をぎゅっと掴んだ
「僕は…迦楼羅の罪で…」
「好き?」
聞いてくる烏倶婆迦に乾闥婆が黙り込む
「…僕が…【乾闥婆】である限り…僕は迦楼羅の罪でしかないんです…それ以上の感情を持つ資格は…」
「好きなの?」
「僕は…」
「乾闥婆!!」
作品名:【無幻真天楼第二部・第二回・弐】小さなこいの唄 作家名:島原あゆむ