【無幻真天楼第二部・第二回・弐】小さなこいの唄
烏倶婆迦が戸を開けると乾闥婆を抱いた迦楼羅が部屋に入る
テーブルの横を通るとさっきまで湯気がたっていたお茶はすっかり冷めていた
奥の部屋にある寝台に乾闥婆をおろすと迦楼羅が乾闥婆の帽子を取ると高い位置で結ってあった薄水色の髪を解きゆっくりと寝かせる
「迦楼羅…」
「布団をかけてやってくれないか」
烏倶婆迦が頷いて乾闥婆に布団をかけた
「乾闥婆…動かない」
「…最小限の力は残っている…」
「乾闥婆…おいちゃんが会いに来たから…」
「嬉しかったのだろうな」
烏倶婆迦が迦楼羅を見上げた
「嬉しかった…の?」
「乾闥婆が茶をいれただろう?」
「うん。おいしかった」
「そうだろう。乾闥婆のいれた茶はワシも気に入っているからな…」
迦楼羅が目を細めて乾闥婆を見る
「起きたら頼んでみるか…」
「おいちゃんも飲みたい」
「そうか」
迦楼羅が烏倶婆迦の頭を撫でた
「…烏倶婆迦」
「何?」
「乾闥婆を本当の笑顔にする…それがワシにしか出来ないと言っていたな」
「うん言った」
烏倶婆迦が頷く
「…どうすればいいのだ?」
「おいちゃんは知らないよ」
「知らない?;」
「うん知らない」
迦楼羅の眉がぴくっと動いた
「迦楼羅にしかわからないことだし」
「ワシにしか…って…それがわからぬから聞いてるのであろう!!たわけっ!!;」
「たわけって言われてもおいちゃんは知らない」
「ならばどうすればいいのだッ!!」
「だからおいちゃんは知らないよ」
怒鳴る迦楼羅に淡々と返す烏倶婆迦
「あのね」
「なんだッ」
「ハルミママは一番好きな竜がいるから本当の笑顔になったんだよ」
「それがなんだと…」
「迦楼羅は乾闥婆が好き?」
烏倶婆迦のお面をつけた顔が迦楼羅を見る
「ねぇ迦楼羅は乾闥婆が好き?」
「な…っ…;」
口をパクパクさせる迦楼羅に烏倶婆迦が更に突っ込んだ
「そっ…な…っ;」
「迦楼羅ヘタレだね」
烏倶婆迦が帽子を直しながらため息をつく
「さっきはあんなに乾闥婆を大切なものとかい…」
「っだああたぁぁぁぁッ!!;」
迦楼羅が声をあげ烏倶婆迦の言葉を止めた
作品名:【無幻真天楼第二部・第二回・弐】小さなこいの唄 作家名:島原あゆむ