【無幻真天楼第二部・第二回・弐】小さなこいの唄
「烏倶婆迦!!」
「迦楼羅…? 迦楼羅!!」
乾闥婆の羽衣で浮かぶ烏倶婆迦を見つけた迦楼羅
「迦楼羅!! 乾闥婆が乾闥婆が…」
迦楼羅が黒い塊となっている近衛を見た
「乾闥婆…が…?」
「近衛が乾闥婆…」
烏倶婆迦の言葉が言い終わらないうちに巻き起こった強風
吹き飛ばされそうになった烏倶婆迦の体を誰かが引っ張った
金色の光広がり近衛の動きが止まる
「どけ」
頭の上から聞こえた声に烏倶婆迦が見上げた
「迦楼羅…」
広がった光は迦楼羅の背から生えた羽
いつもの小さな体ではなく本来の大きさになった迦楼羅が睨むのは近衛
「迦楼羅 乾闥婆…」
「大丈夫だ…」
迦楼羅が烏倶婆迦の頭を撫でる
「二度もあってなるものか…大切なものを二度もなくすことなど…」
烏倶婆迦を抱き抱えた迦楼羅が小さく言った
「しっかりつかまっていろ」
「うん」
烏倶婆迦が迦楼羅の服を掴むとぐんっと上に引っ張られるような感覚がしてさっきまで見上げる位置にあった近衛が下に見えた
「いくぞ」
烏倶婆迦の体を抱く迦楼羅の手に力が入ったかと思うと風圧で迦楼羅の体に押し付けられた
迦楼羅の体温を感じて思い出した京助の言葉
【父親はこう…でかい】
「お父さんは…大きい…」
烏倶婆迦が乾闥婆の羽衣と迦楼羅の服を一緒につかんだ
光の矢という例えが一番合っていたのかもしれない
一瞬の出来事
迦楼羅の肩越しに弾かれた近衛が飛んでいくのが少しだけ見えた
たくましくはないものの大きな胸から聞こえる鼓動に烏倶婆迦が不思議と安心感を覚える
「どかんかッ!!」
迦楼羅の声に近衛の動きが怯む
計り知れない巨大な力の塊と黒い塊がぶつかる
やがてひとつの近衛の中にとらわれた乾闥婆を見つけると迦楼羅がゆっくりと近づき手を伸ばした
「乾闥婆…」
烏倶婆迦が小さく乾闥婆を呼ぶが乾闥婆からの返事はない
「迦楼羅…」
見上げてきたた烏倶婆迦に迦楼羅が微笑みを返した
迦楼羅が近衛の中に手をいれると近衛が迦楼羅の腕に絡んできた
「そんなに力が欲しければいくらでも持っていけ。だが乾闥婆は返してもらう」
迦楼羅の手が乾闥婆の体に触れたかと思うと近衛が弾けた
羽衣のない乾闥婆の体を迦楼羅が掴み烏倶婆迦と共に胸に抱くと烏倶婆迦が乾闥婆に手を伸ばした
触れた頬は冷たい
ぴくりとも動かない乾闥婆に烏倶婆迦が羽衣をかける
作品名:【無幻真天楼第二部・第二回・弐】小さなこいの唄 作家名:島原あゆむ