出会いは衝撃的に(前半)
「二階建てだとばかり思っていたけど、じゃあ、天井が高いんだ」
「床が地面から離れているけど、天井までの空間が大きいから、だから真冬は寒くて……」
「だけど、真夏は涼しいということじゃない?」
「そうね。もう秋だから、今夜なんかは暖炉で薪を燃やさないとね」
「暖炉があるというのは超いい雰囲気だな。ところで、今夜の宿泊者は?」
「二人だけよ。ご不満?」
「……そう。いいね。二人だけ……」
浅野は今夜どんなことになるのかを、想像することができない。美絵との今後の関係を、大きく変える夜になるかも知れないと思うのだが、恋愛を経験したことのない浅野は、急に緊張する自らを意識しないではいられない。
「お腹、すいてるでしょ?サービスエリアでお食事してから……」
「四時間以上だから、そうだね。もうすぐ空腹を感じる頃だね。これから一緒に夕食を作る?」
「車で十分くらい行くと、お食事ができるホテルがあるの」
「向こうに見える建物がそれかな?予約してないと、きびしいんじゃないの?スーパーとかは?」
「三十分くらいね、車で」
急に空気が冷えてきた。
「暗くなってきたね。引き返すよ」
湖の対岸に、ホテルらしい灯りが幾つか見える。その光が湖面に映って美しい。それらを眺めながら浅野はボートを半回転させた。そのとき、美絵はぽつりと呟くように、
「わざと……」
「え?」
「……わたしね、わざと追突したの。」
作品名:出会いは衝撃的に(前半) 作家名:マナーモード