出会いは衝撃的に(前半)
「もう、浅野さんって誰にでもそういうこと云ってるんでしょう。何なの?目的は」
意外だった。美絵は如何にも機嫌が悪いことを、その横顔に窺わせている。浅野は、ほめられて気分を害する人間がいるという事実に驚かされている。
「ただ、思っていたことを云っただけすっよ」
「そうは思えないわ。何か企んでるのよ。きっとそうだわ」
浅野もそこまで云われると気分を害された。
「……美絵さん。映画を観たくなくなりました。やめましょう」
既に映画館のある繁華街に近づいていた。そこからは電車の駅も近い。
「……」
「車を停めてください」
「……映画は中止……じゃあ、ドライブでもいいわね。あっ、高速道路の入口だわ」
「どこへ行くんですか?」
「さあ、わからないけど、せっかくのバースデーじゃない。このまま帰っちゃうなんて……」
「まあ、そうだけど……誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。浅野さんは、今日から二十九歳ね。おめでとうございます」
美絵の車はあっさりと右へ車線変更してスロープを登って行く。高度が増すに連れて浅野は急に愉快な気分になってきた。
作品名:出会いは衝撃的に(前半) 作家名:マナーモード