出会いは衝撃的に(前半)
「あっ!この車、もう女性専用車じゃなくなったんですね」
美絵は晴れやかな笑顔で如何にも愉快そうに云った。
「……と云うことは、私が初めて乗車した男性?」
「そうなんですよ。その席に座った初めての男性があなただわ」
その声の艶っぽさに、浅野は身体中をくすぐられているような、骨抜きにされたような気分だった。もはや二度と車の外を歩けない状態にされてしまったのではないか、という不安が兆した程だ。
「美絵さんは見え透いた嘘の天才ですねぇ。冗談としても行き過ぎという感じです」
「本当なんですよ。一緒に映画を観たこともないし、二人で食事をしたとか、それどころか、男性と二人だけではコーヒーショップに入ったこともないんです」
「……怒るかも知れないけど、どう見ても十五六の小娘には見えませんけどねえ」
「プラス十ですからね。二十六です」
「親から男女交際を禁じられていたとか?」
「男性のほうから誘われたことがないの」
そういう話を浅野は聞いたことがあった。近寄り難い程の美女は男に敬遠されてしまうという。どうせ恋人がいるだろうから無駄な努力はよそうと、どの男もそう思ってしまうのである。だから、浅野も自分から誘ってみようなどとは思わなかった。
作品名:出会いは衝撃的に(前半) 作家名:マナーモード