出会いは衝撃的に(前半)
もうひとつ、車を運転しながら浅野が思い出したことがある。
浅野の母の生家のある田舎町に、母の妹が住んでいた。やはり高校生のとき、浅野は叔母の家に投宿したことがあり、その家の近くで電気工事店をやっている、或る家に連れて行かれたことがある。その家には絵を描くことが好きな息子がいて、毎日絵画制作をしているという話だった。浅野も油絵を描くことが好きで、描いたものを売って小遣い稼ぎをし、家の生活も扶けていた。
下村龍という名の息子は、大作を制作して公募展に出品していると聞き、浅野は同年齢のその男の描いたものを見ながら話をしたいと思って出かけた。
行ってみるとそこにいたのは気さくな母親と、その娘だった。下村龍は前夜友人たちとウィスキーを飲みすぎ、二日酔いで寝込んでいるという。
二級下の妹は、天使ということばを連想させる美少女だった。下村恵はピアノの演奏が好きで、クラシックのピアノ奏者を夢見ていた。
その美少女が浅野と親しくなった。浅野がそこを訪れる度に、美少女は彼にピアノを演奏して聴かせた。
「不思議ですねぇ。恵は父親とお兄ちゃん以外の男性とは、絶対に口をきかない子なのに……」
母親はいつも同じことを云った。浅野は恵に惹かれたものの、彼には意中の少女がいた。恵とは何度か映画を観に行った浅野だが、彼の片思いは続いていた。
浅野が一方的に熱愛していた相手は、田代雅代といい、彼女は浅野の高校での親友の妹だった。雅代は卓球の選手であり、また、写真マニアだった。
作品名:出会いは衝撃的に(前半) 作家名:マナーモード