出会いは衝撃的に(前半)
「昔ですが、男と一緒の美絵さんを、映画館でみかけたことがありますよ」
浅野も冗談のつもりで云った。
「それは嘘ね……あっ、父に連れられて行ったような気がします。わたしが……小学生の頃だわ」
「その後は?」
「いつも妹と一緒だったかな」
「でも、恋人と、一度くらいは……」
「ないない。カレシができたことないもの」
「その顔でよく云うよ」
「本当だってば。わたし、全然モテないの」
「来週は白状させますよ」
「拷問でもする気?……ところで、浅野さんは?」
「私が映画館に行くのは、いつも一人でしたね。観たあとで誰かとその映画について話してみたいなぁって、いつも思ってましたよ」
それは嘘だった。彼が映画やコンサートに連れて行った女性は、過去に何人もいた。但し、どの相手も美絵のような美人ではなかった。
「あっ!あの自動販売機の前で止めてください」
「はい。白いのじゃなくて、紅い方の前ですか?」
美絵は肯定した。そこは大きな新しいマンションの前だった。美絵が一万円札を出したので、浅野は来週会ったときでいいと云った。休憩のあとで燃料補給をし、その際に両替をしようと思っていた。それを美絵に説明した。
作品名:出会いは衝撃的に(前半) 作家名:マナーモード