われてもすえに…
「はい。大きいでしょ?」
「一人で一匹全部食べられる?」
「食べられる!」
自信満々の様子で魚に箸をつけはじめた小太郎を母と姉はうれしそうに眺めていた。
「偉いわね。いつもこれくらい食べれば問題ないのに……」
「そうですよね。母上、この子このままいくとヒョロヒョロになるんじゃないですか?」
「心配だわ。父上に似たガッシリした身体になればいいけど……」
「ですね……」
母と姉の心配をよそに、小太郎はもくもくと魚を美味しそうに食べていた。
夜、部屋でお風呂の支度をしていた小太郎のもとに絢女がやって来た。
「小太郎、お姉ちゃんと一緒にお風呂入る?」
「入らない。もう大人だからね!」
元服前までは一緒に入ることもあった。
しかし、大人になったからには姉とはもう一緒に入らないと決めていた。
父とはまだ入っていたが。
「へぇ。じゃあね。おやすみ」
「おやすみなさい」
その晩、小太郎は妙な夢を見た。
彼は夕方お参りした祠の前に立っていた。
しかし、身分の高そうな老人が眼の前に立ち、ほほ笑んでいた。
『あの、おじいさんは誰ですか?』
『神様じゃ。』
『ふぅん。何の神様ですか?』
『この国を守る神じゃ。』
『すごい。偉い神様だ。それで、貴方のような偉い方が、私などに何の御用ですか?』
神と名乗った老人はしゃがみ込み、小太郎の視線に合わせて聞いた。
『そなた、立派な侍に成りたいと申したな?』
『はい。』
『それと、力が欲しいと。』
『はい。』
『ワシはな、お前の願いを叶えに来たのじゃ。』
うれしい言葉に、小太郎は感謝の言葉を述べた。
『ありがとうございます!』
『しかしな、約束がある。五日後町へ行くのじゃ。良いか?』
あまりにも簡単な約束に、少しばかり小太郎は拍子抜けした。
『はい。それで?』
『ある者と出会うだろう。その者に。ついてゆけ。』
『わかりました。』
誰なのかは想像もつかなかったが、願いがかなうのなら怖くはない。
そう思い、了承した。
『では、小太郎、頭を下げろ。』
『え?なんですか?』
『いいから、下げなさい。』
『はい。』
『それ!』
頭を垂れたとたん、神が持っていた杖で頭をぽかりと叩かれた。
その途端、小さな痛みが走り、小太郎の眼の前は真っ暗になった。