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今の写真を

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「そうだね、じゃあ僕はこっちだから。またね浅原さん」
「うん、また明日」
 そういって僕らは分かれてそれぞれの家路についた。
 その日の夜、僕は写真の焼き増しを頼まなかった。

 翌日の昼休み、真一といっしょに昼食をとった後、昨日預かっていた写真を返した。写真の焼き増しを頼まなかったことについては特に言及されることはなかった。
「はいこれ。昨日の写真」
「おう、サンキュ」
 真一は写真を受け取ると、それを鞄にしまった。
「そういえば昨日のバイトどうたっだ」
「それがよ、昨日はさ――」
 適当に話題を作り、会話をしていると。
「坂上君、昨日のメール見てくれた?」
 浅原さんが話しかけてきた。
「ああ見たよ、焼き増しの件だろ?」
「うん。どのくらいでできるかな」
「今日の放課後に店に行くつもり。どうせだから浅原も来るか?」
「じゃあご一緒させてもらおうかな」
 二人はとんとん拍子に話を進めていく。
 叶わない恋だということは重々承知しているが、目の前で仲良くされた上に放課後の約束まで取り付けている光景を見ていると、さすがに嫌な気分になってしまう。そんなことを思っていると、
「卓君もいっしょに来ない?」
 と浅原さんが誘ってくれた。
「……うん、行くよ」
 少し迷ったが、せっかくだと思い乗ることにした。
 
 放課後、それぞれちょっとした用事があったので各々済ませた後、校門前に集合ということになった。
 僕は用事を済ませると、二人を待たせているかもしれないと思い、少し早足で校門を目指す。今日は昨日よりも気温が高く、汗が額から滲み出す。今年は初夏の訪れが早そうだ。
 靴を履き替え玄関から出ると、校門で話し合ってる真一と浅原さんの姿があった。何を話しているのかはわからないが、楽しそうだということはわかる。見ていて嫌な気持ちになったが、我慢して二人のもとに駆け出す。僕はなるべくそれを表情に出さないようにした。
「ごめん、遅れた」
 そう言って僕は二人の会話に割って入った。
「大丈夫だよ、俺らも今来たところだし」
 と真一が言ってくれた。真一が僕に変に気を使うことはないだろうし、ほんとに今来たところなのだろう。
「じゃあ行こうか。駅前の写真屋でいいのよね」
「おう」
 真一の返事を皮切りに、僕たちは目的の店に向うことにした。
 昨日浅原さんと帰ったときと同じように、けれど今度は3人で他愛のない会話をしながら写真屋を目指す。学校を出て20分ほど歩いた頃だろうか、目的の写真屋に着いた。
「じゃあ焼き増し頼んでくるからちょっと待っててくれ」
 僕と浅原さんはそう言い残して店内に入っていく真一の後ろ姿を見送ると、
「私達はあそこで待ってようか」
 浅原さんが近くにあった公園を指差した。
「そうだね」
 僕たちは隅っこにある少し古ぼけたベンチに腰掛けた。公園を見回すと数人の子どもがサッカーをして遊んでいるのが見える。休憩を入れることなく動き続ける子ども達を見ていると、もしかしたら小学生より体力がないんじゃないかと不安になった。ふと見上げると空は幻想的な薄紫色になっており、とっさにこの空をカメラに収めたいと思ったが、今日はカメラを持ってきていなかったのでどうしようもなかった。
「きれいな薄紫色だね」
 そう言った浅原さんの方を見ると、彼女も空を見上げていた。
「うん。なんだか今日も終わったなあって感じになるんだよね」
「ああそれわかる。何か寂しくなっちゃうのよね」
 そんな会話しながら二人で空を見上げる。
「写真に撮っとこうかな」
 浅原さんは鞄の中からデジタルカメラを取り出して薄紫の空に向かってピントを合わせると、数回シャッターを切った。
「見て。きれいに撮れたと思わない?」
 そう言いながらカメラの液晶画面を僕のほうに向けてくれる。そこには言葉通りきれいに撮られた薄紫の空があった。最近ではちょっとしたカメラでもある程度の写真がとれるようになってきている気がする。でも浅原さんの写真はそんなことを思わせないほどよく撮れていて、感心してしまった。
「ほんとだ。きれいに撮れてるね」
「でしょ。ところで卓君は撮らないの?」
「今日はカメラ忘れちゃったから撮りたくても撮れないんだ。もったいないことしたなぁ」
 後悔の気持ちを抱きながら改めて空を見上げたら、
「じゃあ私が撮ったのでよければあげようか?うちプリンタがあるから明日には用意できるよ」
「ほんと?」
 浅原さんがそんな提案をしてきたので思わず彼女の方を見てしまう。
「うん。どうする?」
「じゃあ…お願いしてもいいかな」
「了解」
「ありがとね、浅原さん」
「どういたしまして」
 そう言った彼女の後ろでは、用を済ませ、店から出てくる真一が見えた。僕達を見つけようとしているのだろう、辺りを見回している。しばらくしてこちらに気がつき駆け寄ってきた。
「おーい、何してんだ」
「写真撮ってたの。きれいな薄紫空だったから。ほらこれ」
 浅原さんが液晶を指差し、真一がそれを覗き込む。二人とも、近いよ。
「きれいに撮れてるな」 
「でしょ。坂上君もよかったらこの写真いる?明日卓君に頼まれた分といっしょに持ってくるよ」
「おう、ぜひ頼む」
 二人はカメラから顔を離す。その後真一は少し伸びをして
「せっかくだからどこかで飯でも食べいくか」
「そうね。せっかくだからそうしようか」
 提案に対して賛成する浅原さん。僕はというと実はそんなに空腹ではないのだか、こうやって友達と外でご飯を食べるのは楽しいことの一つだと思うので、
「じゃあどこに行く」
 同じく賛成した。それにこの人とできるだけ長くいっしょにいたいものだ。

 駅から数分ほど歩くと、目的のファミレスに着いた。中に入ると満席とまでは行かないが、ほとんどの席が埋まっている。見回すと学生が多いのは、部活動終わりの生徒とタイミングがはちあってしまったからだろう。
 僕達は空いていた席に着き、料理を注文して食事を済ませた後、雑談を少しして店を出た。辺りはすっかり暗くなっており、町の明かりと街灯だけが道を照らしてくれている。
 今日は解散ということになり、男子である僕と真一は大丈夫だが、女子である浅原さんをこんな夜中に一人で帰すのは危ないということから、送っていくことになった。最初真一が送っていくと言い出したのだが、真一の家は僕と浅原さんとは逆方向だ。時間が掛かって遅くなると親に怒られてしまう恐れがあるので僕が送っていく、と言うと真一は諦めて僕に任せてくれた。
「別に大丈夫なのに」
「ダメだ。もしものことがあってからじゃ遅いからな」
「そうだよ浅原さん」
「はぁ…わかったわ。お願いするね卓君」
「うん。真一より頼りないだろうけどちゃんと家まで送り届けるよ」
「何それ。頼りにしてるからね」
「しっかりしろよ卓」
 そう言って僕達は別れた。
 真一と別れて今は僕と浅原さんの二人だ。町の明かりから離れ、人気の少ない路地を歩いている。暗くて危ないと思っていたが、月明かりが道を照らしており、恐怖よりも神秘的で不思議なものを感じる。浅原さんも同じように思っているかもしれない。
「今日はなかなか充実した放課後だったわ」
作品名:今の写真を 作家名:A.S