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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ツイン’ズ・アナザー-魔法使いになったら-

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 佐藤さんが叫びます。どうやらあたし、敵のゴール下に突っ立ってたみたいです。でも、あたしシュートなんてしたことなですよ。
「ああっ、愛さま!」
 あられもない声を出してすいません。だって、気づいたら愛さまがあたしの前にいるんですもの。
 愛さまはあたしからボールを奪おうと襲い掛かってきました。ああ、このまま襲われたい……じゃなかった。あたしは正々堂々と愛さまと一騎打ちです。
 とにかくシュートです。ここはシュートしかないです。もしかして、今のあたしってちょっぴりカッコいいですか?
 一心不乱であたしはジャンプしてシュートしました。かなり高く飛び上がって、ダンクシュート……ダンクシュート?
 場の空気が一瞬にして固まりました。
 あたしの手はリングにぶら下がって、足はぶらぶら。ボールは見事リングに入って地面に落ちました。
 ちょっと冷静になって考えましょう。
 あたしは運動オンチで、背も高くなければ、ジャンプ力なんてないですよ。でも、今ゴールリングにぶらさがってますよね。――やっちゃいました。
 魔法です。魔法使っちゃったんです、きっと。
 下を見ると愛さまがあたしのことを見つめていました。
「玉藻の実験台にされたのか?」
 愛さまのお優しいお言葉です。
 ……問題はそんなことじゃないですね。確かにこの学校で奇々怪々な出来事が起こった場合の原因は大抵玉藻先生にあります。ですけど、これは……。
「偶然です、偶然!」
 かなり苦しい言い訳をしてしまいました。偶然のわけないじゃないですか。あたしの言葉にみなさん沈黙です。
 こう言う場合は、話をはぐらかせて逃げた方がいいと思うんですけど、どんな話をしたらいいんでしょうか?
 そうですね、そうです。まずはここから降りましょう。降りてから言い訳をしましょうね。
 ……降りれません。ちょっと高いですよ。運動オンチのあたしが降りられるわけないじゃないですか!?
 地面が遠く感じます。手も痺れてきました。目からちょっぴり涙も溢れてきています。これって絶体絶命ってやつですよね。
「助けてください。降りれません……誰か助けてください!」
 叫んでました。恐怖から我を忘れて叫んでました。そんなあたしに愛さまはお温かい笑顔をくださいました。
「私が受け止めてやるからジャンプをするんだ」
 愛さまの腕が大きく広げられ、あたしを受け止める準備OKです。でも、愛さまの胸に飛び込むなんて、あたし、あたし、恥ずかしくってできません。
「どうしたんだ? 早く私の胸に飛び込んで来い」
 飛び込んで来いって言われても、困ります。できません、あたしにはできません。愛さまの胸に飛び込むなんて恐れ多いことできません。
 あたしが躊躇している間に、体力の限界ってやつが来ちゃったみたいです。汗で手が滑りそうです。もう、ダメです落ちます。死にます。絶対あたしドジだから頭打って死んじゃいます。
「ああ……もうダメです
 思わず目をつぶり、手を滑らせ床に落下するあたし。ビルの屋上から落下する気分ってこんな感じなのでしょうか? 妙な浮遊感、そして、やわらかく温かい胸の中……思わずハグハグ……じゃなくって胸の中?
 あたしがゆっくりと目を開けると、そこには笑顔の愛さまのお顔が。眩し過ぎます。ダメです、そんなに見つめられたらあたし可笑しくなっちゃいます。
「大丈夫か珠瀬、顔が赤いぞ」
 そんな直球で言わないでください。だって、愛さまがあたしのことを見つめるから。
 心配した愛さまのお顔があたしの顔を間じかで覗き込んできます。
 柔らかそうな紅い唇が急接近。ヤバイです、変な想像をしてしまいました。
 ダメです、限界です。もう、愛さまに嫌われてもいいから、その唇を奪いたい。……なんてことできるわけないじゃないですか。でも、限界です。
 意識が遠退き、あたしは気を失ってしまいました。恥ずかしいことに昇天しちゃいました。

 目が覚めるとそこは……。
「うわぁっ!」
 素っ頓狂な声をあげてしまってすいません。だって、また愛さまのお顔があったんですもの。
「すまない、脅かしてしまって」
 愛さまのお顔が離れてきます。そして、どんどん愛さまの顔がぼやけて……夢の中、じゃなくって、眼鏡がない!?
「眼鏡は? 眼鏡はどこ!?」
「ああ、眼鏡ならそこに」
 眼鏡を見つけて立ち上がったあたしの頭から何かがぼとっと落ちました。濡れたタオルです。
「あの、これって?」
「熱があったみたいなので、それで冷やしてしたんだ」
「ごめんさない、心配をかけてしまって」
 どうやら、愛さまがあたしを保健室まで運んでくれて、ずっと付き添っていてくれたらしいです。そんな迷惑を愛さまにかけるなんて、あたしって罪なひと。
 眼鏡を掛けて、ようやく落ち着きました。眼鏡掛けてないと挙動不審になっちゃうんですよね。
 落ち着きを取り直したと思ったら、愛さまがあたしのことを見つめてるじゃないですか!?
「眼鏡もいいけど、素顔の方が可愛いな」
「えっ?」
「珠瀬の眼鏡を掛けてない顔はじめてみたけど、その方が素敵だな」
「素敵!?」
 愛さまに素敵だなんて言われるなんて、絶対今日中に地球爆発しますよ。でも、うれしいです。
「コンタクトにはしないのか?」
「眼鏡の方が楽ですから」
「そうか」
 愛さまはちょっと残念そうな顔をしていましたけど、これでいいんです。眼鏡を取ったあたしの顔は愛さまだけのものです。コンタクトなんかにしたらいろんな人に見られちゃうじゃないですか。
 愛さまがあたしの素顔を見て、『素敵』って言ったことはあたしの胸に大事にしまっておきます。
 愛さまは何かを思い出したように、ベッドの下に置いてあったバッグを持ち上げました。それってあたしのバッグじゃないですか?
「目が覚めたら、早退した方がいいと思って持って来たのだが、余計なお世話だったか?」
「いいえ、もう帰ります。体調悪いみたいですから、帰ることにします」
「その方が私もいいと思う。まだ顔がだいぶ赤いみたいだしな」
 それは愛さまと保健室で二人っきりだからです。あ〜んなことや、こ〜んなこと想像しちゃって……ってなに考えてるのあたしったら、バカみたい。
 バッグを愛さまから受け取った時、あることに気がつきました。そう、朝、バッグに入れてきたもの。
「あの、愛さま」
「ん?」
 あたしはバッグの中に大切に入れてあったものを愛さまに手渡しました。勇気がいりましたが、勢いです。
「これ、受け取ってください」
 わたしが差し出したのはバレンタインデーチョコレート。心臓バグバグで身体が熱いです。
 愛さまはにこやかに笑ってくれました。
「ありがとう」
 愛さまがあたしの差し出したチョコを手に取った瞬間、愛さまの指先があたしの指先にちょっぴり触れました。身体に電撃が走ったみたいにゾクゾクってしました。
「ここで食べてもいいかな?」
「は、はい」
 なんであたし『はい』なんて答えちゃったんだろう。だって、ここで開けられたら……。