ツイン’ズ・アナザー-魔法使いになったら-
更衣室ってあるんですけど、時間がないのでみなさん教室で着替えます。もちろん下着姿になんてなりませんよ、うまくワイシャツを着たままで着替えるんです。あ、うちの学校の女子生徒ってブラウスじゃなくってワイシャツ着てる子の方が多いんです。
ブラウス着ていると男子たちにお嬢様とか言われてからかわれるんです。ヒドイと思いませんか……実はあたしも被害者だったりします。
体操着をワイシャツの上から着て、そのあとでワイシャツを脱いで体操着の首のところから抜くんです。体操着の下はハーフパンツなんですけど、冬はジャージです。そのジャージをスカートを穿きながら穿いて、スカートを脱ぐ。で、ジャージの上を着て完璧です。
あたしは体操着に着替えるの早い方なんですけど、制服の上からジャージを着る人には負けます。でも、それってズルですよね。それに制服のまま汗とかかいたら嫌じゃないですか、ってそういう人は真剣に体育の授業受けないから汗かかないんですね。
体操着に着替え終わったあたしは体育館に走っていきます。廊下を走るなってよく言いますけど、走らないと遅刻するので走ります。でも、走るの苦手なので小走りです。
チャイムと同時に体育館に駆け込んでギリギリセーフ。毎週こんな感じです。
チャイムはもう鳴り止んだんですけど、生徒の集まりが遅いんですよね。体育教師のベルバラこと伊原尚美[イバラナオミ]先生は毎週張り切ってるんですけどね。
あっ、ベルバラっていうあだ名は、この先生の髪の毛の色と髪型が某ベルバラに登場するオスカルに似ているからそう呼ばれているんです。確かに顔は綺麗なんですけど、言動がちょっと……。
「カワイイぞマナぁ〜、いつ見てもそのジャージ姿が魅力的だ」
ね、変でしょ。しかも、愛さまに平気でハグハグするんですよ。でも、愛さまはちゃんと避けるのでバルバラはいつも宙を掴みます。
愛さまのジャージ姿はいつ見ても素敵です。いつものゴスロリとのギャップがなんとも言えず、一部マニアでは好評です。
あたしが愛さまのジャージ姿に見とれていると、いつの間にか全員集合したみたいです。
今日の授業はバスケットボールだそうです。ベルバラは本当はフェイシングが得意なのでフェイシングをやりたいそうですが、残念ながらフェイシングは授業のカリキュラムに入っていません。
前に言いましたけど、あたしって運動が得意じゃないんです。つまり運動オンチってやつですね。特に球技は苦手で、できることなら休みたいです。
バスケットをするにあたって、まずはチーム分けです。ここであたしの運が試されます。愛さまと同じチームになれるかのチャンスです!
がしかし、運命って時として皮肉なものです。なんとわたし愛さまの敵になってしまいました。ショックです。
たかが三分の一の確立だったのに、なんてあたしは不幸なんでしょうか。わたしは愛さまと戦うなんてできません。そんなことできません!
恨めしそうな目で愛さまのチームを見つめるあたし。そこであたしはあることに気がつきました。見上宙[ミカミチュウ]さん。
愛さまと仲のよい見上さんという方がいるんですけど、どういうわけか、愛さまと見上さんって一緒になることが多いんです。席替えも毎回近くだし、今回だってくじ引きでチーム分けしたんですよ。絶対裏があります。
そう言えば、見上さんが超能力者だって噂を聞いたことがあります、っていうか学校全体に蔓延している噂なんですけどね。まさか、その超能力を使って……!?
超能力なんてズルイです。あ、あたしも魔法で……ダメです、いけません、魔法は使わないって決めたんです。
そうです、何ごとも正々堂々とです。あたしも正々堂々と全力で愛さまと戦います。愛さまの胸を借りて体当たりでがんばります。
ですが、いざ試合がはじまると何もできなくて。コートの隅っこであたふたしちゃってます。いつものことなんですけどね。
完全に戦力外って感じですね。あたしってなんで運動できないんだろう。ちょっと虚しいな。
試合はあたし抜きでどんどん進んで行きます。うちのチームは佐藤美咲[サトウミサキ]さんが張り切ってがんばってますし、あたしなんていなくてもいいですよね。
あたしがぼーっとして適当に辺りを見回していると、ある人と目が合ってしまいました。見上さんです、見上さんと目が合いました。
あたしの他に戦力外の人、見つけちゃいました。見上さんもあたしと対極のコートの隅でぼーっとしてます。しかも体育座りで試合を完全放棄です。
あたしと目の会った見上さんは不適な笑みを浮かべました。ちょっとあたしをバカにしているような笑みです。自分だって戦力外なのに。
訂正します。見上さんはこの後活躍しました。
あたしと目の合った後、見上さんは突然立ち上がるとボールを見ました。その見方が尋常じゃない感じなんです。まるで、ボールに念を送っているような感じなんです。
佐藤さんが持っていたボールが突然上空に上がりました。佐藤さんが投げたのではなく、ふあふあ〜っと勝手に宙に浮んだんです。その瞬間あたしは見ました。見上さんが不敵な笑みを浮かべるのをこの目でしっかりと。
宙に浮んだボールは見上さんの腕に吸い込まれるようにして、飛んでいきました。超能力です、絶対これって超能力です。って毎回思います。
見上さんってたまにみんなの前で不思議な能力を使うんですよね。でも、誰も本人には確かめないんです。実際には確かめた人がいるらしんですけど、その人は謎の不慮の事故にあったとかで、その噂が流れてからは誰も見上さんの超能力は見て見ぬふりをしています。
ボールを取った見上さんは、ボールを転がしました。そう、そうの姿はまさにボーリング。バスケでこんなことする人はじめて見ました。
地面を転がるボールはまるで意志を持っているように人々の間を抜けて行きます。絶対見上さんが遠隔操作してるんですけどね。
そして、ボールは突如高く舞い上がり、ゴールのリングに吸い込まれていきました。反則だと思うんですけど、超能力を使ったら反則ってルールないですよね。
今のゴールでうちのチームと愛さまチームが同点に並びました。そう考えると、やっぱり今の反則だと思います。超能力で同点に並ぶなんてズルですよ。
あたしも見てるだけじゃなくって、何かをしなきゃという衝動に駆られました。あたしだってきっと何かできる。ファイトあたし!
意気込んで歩き出したあたしですが、何をしていいのかあたふたです。困りましたやっぱり何もできません。
敵がこちらにドリブルしてきても遠くに逃げちゃうし、ボールが飛んできても避けてしまいます。あたしって役立たず。てゆーかお荷物?
「珠瀬さんボール!」
佐藤さんの声がしたなぁ〜と思ったら、大変です眼前までボールが迫ってきているじゃありませんか!
「あわわぁ〜!」
飛んできたボールを偶然にもキャッチしちゃいました。ミラクルですね。でも、これからどうしたらいいんでしょうか?
「あのぉ〜、これからあたしは何をすればいいんでしょうか?」
「珠瀬さんシュート!」
作品名:ツイン’ズ・アナザー-魔法使いになったら- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)