小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

INDEX|7ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 

「伸(しん)ちゃんにも会いたかった……」と。
 母がとても哀れに思えた。伸ちゃんとは、私のたった一人の弟だ。もちろん伸ちゃんにはこの日、一緒に行こうと誘ったが、彼は首を縦には振らなかった。
母が出て行ったあの日、まだ三歳だった弟は、しばらく母を求めて泣いていた。そしてやがて諦め、おじいちゃん子になっていき、同時に私はお父さん子になったのだ。

 その年の一月にはすでに成人式を済ませていた私は、その時の様子を母に話して聞かせた。 
 ――母のいない私のために、病院の婦長さんが一緒に呉服屋さんに行って、私に似合いそうな着物を選んでくれたこと。成人式当日は朝早くに美容院に行き、頭をセットして着物を着付けてもらったこと。そして写真館で記念写真を撮ると、父が車で会場まで送ってくれて、私の晴れ姿にニコニコと嬉しそうだったこと――
 母はその話を聞くと、是非写真を見せて欲しいとせがんだ。そして色々話をして帰る時、次に来る時には成人式のアルバムを持ってくると約束させられた。

 次に母に会いに行った時は、一緒に近くの商店街に出かけて、母と一緒に『ファミレス』に入った。もちろん当時はそんな言葉すらなかった。喫茶店で食事もできる――そんなちょっと洒落た店だった。私は生まれて初めてそこでパフェを注文した。母も同じものを頼んだ。私は小さい頃からの憧れだったのだ。母と一緒にお茶をするのが……。女友達がお母さんと一緒に買い物に行き、洋服やなんかを買ってもらって、その後二人で食事やお茶をしてきたという話を聞くと、羨ましくて仕方がなかった。その憧れが、この時ようやく叶ったのだ。夢じゃないのだ。ただ嬉しかった。しかし、その夢は一度きりだった。
 その後、母はまた体調を崩し、寝たり起きたりの生活で、外出する元気などなかったのだから。