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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

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 数日後、父の許しを得た私は母に電話してみた。
 あの人からもらった電話のメモは、ここでやっと出番を迎えたのだった。
 電話から聞こえてくるその声は、私が昔聞いた、大好きな母の声だった。十年振りに娘に会えると思う母の声は、まるで音符が飛び出しているかのように弾んでいた。
 それからさらに数日後、懐かしい母を訪ねて行ったのは、私が十九歳の初夏だった。久しぶりに会った母は、自慢の混ぜ御飯を作って待っていてくれた。混ぜご飯には何だか懐かしい母の味がするような気がして、美味しかった。そして終始、母のその顔はニコニコと嬉しそうだった。
 入退院を繰り返したその体は痩せ細っていた。姿形はもちろん、私の記憶の中の母とは違っていた。記憶というものは自分の好きなように変わっていく、いや変えていくものなのかもしれない。無意識に、自分の望むように――。
 話していると、やはり十年の隔たりは大きいと感じた。実の母親なのに、母だという実感が湧いてこないのだ。たまにテレビでご対面番組を見ることがある。何十年ぶりかで親子や家族が会うという企画だ。テレビの中のその人たちは、抱き合い、涙を流し合う。見ているとこちらもつい涙が出てくる。だが実際に会うと、ちっともそんな事はないのだ。十年の歳月は、親子を親しい友達のような感覚に変えてしまうようだ。十年間、本当はあるはずの共通の話題が何もないのだから。喜びも悲しみも、それらが何もないのだから。
 母はもう私の記憶の中の母ではなく、全く別の親しい友人のようだった。
 母と私との間の深い歳月の溝。母は少しでもその溝を埋めようとでもするかの如く、あらゆる質問をした。私は一々それに答え、そして最後にぽつんと母が言った。