母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~
私たちの結婚式は横須賀で、身内だけを招んでのこじんまりとしたものだった。
仲人は、徹さんが就職してからずっとお世話になっている北條さんにお願いした。
結婚式当日。私は色無垢の着物で式を挙げ、お色直しで自前のクリーム色の訪問着を着た。本当はウェディングドレスを着たかったのだけれど、その思いは多数決で却下された。その代わりと言うのも変だけど、菜緒には、白地にフリルがいっぱい付いたワンピースドレスを着せてあげた。天使のように可愛かった。
新婚旅行として、私が前々から行きたいと言っていた北海道に連れて行ってあげようと、徹さんは言ってくれたけど、ちょうど徹さんの仕事が忙しい時期でもあったので、私は「行かなくてもいいよ」と言ってしまった。昔から『後悔先に立たず』とはよく言うが、あの時行っておけば良かったと、後々本当に後悔した。
結婚して最初の私たちの住まいは、横須賀市内の二階建てアパートの二〇四号室だった。付近に一人の知り合いもいない私は、徹さんが仕事に行って留守の間は、菜緒と二人きりで毎日を過ごした。
朝は家を五時には出る徹さんのために、その前に起きて朝御飯の支度をしてお弁当を作った。朝食はいつも和食で、ご飯とお味噌汁とおかずが一品か二品、そしてお漬物。決して豪華ではないけれど、結婚してから別れるまでの約十年間ずっとそれを続けた。
午前中は洗濯や掃除をして、午後は菜緒と一緒に近くの公園へ行って遊んだり、買い物に行ったりして、帰ってから夕飯の支度をして徹さんの帰りを待った。
たまには菜緒と二人でバスに乗って、ちょっと遠くの少し大きなスーパーに出掛けたりもした。
徹さんの仕事は現場仕事だったので、帰りの時間はまちまちだった。あんまり遅くなる時は菜緒にだけは先に食べさせて、私は極力徹さんの帰りを待って一緒に食べるようにしていた。徹さんは私が作る物は何でも喜んで食べてくれたが、 私は薄味好みだったので、ある時などはお吸い物に醤油を足し入れたりして、私をがっかりさせたりもした。
しかし、休みの日には色んな所へ連れて行ってくれた。そんな時も、私がやきもきを妬きたくなるほど菜緒とは仲が良くて、誰が見てもなさぬ仲には見えないほどに可愛がってもくれたから、平凡だけど幸せな毎日に、結婚して本当に良かったと私は思っていた。
--続編へ続く
作品名:母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ 作家名:ゆうか♪