母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~
いきなりやって来た徹さんを見て、父はカンカンに怒って私に嫌味を言った。
「あいつと結婚でもするつもりなんかあー!」
その声が、隣室にいる徹さんに聞こえるんじゃないかと私は冷や冷やした。
――結果的には父の言う通り、結婚することになったのだけど……。
熱で身体が辛い私は、すぐさま布団に倒れ込むように入って、そのまま眠り込んでしまった。その後、父と徹さんとの間でどのような会話があったのかは知らないけれど、徹さんと菜緒の二人は、菜緒の案内ですぐ近くの天満宮へお参りを兼ねて遊びに行って来たらしい。あとから菜緒が楽しそうに話してくれた。菜緒はその時まだ三才になる少し前だったけど、ことある毎に私が天満宮へ連れて行っていたので、ちゃんと道を覚えていたらしい。
漸く私の体調が回復する頃には、徹さんは横須賀に帰ってしまった。一体何しに来たのやら……という感じで初対面の時は終わった。その経緯を見ているだけに、父は彼からのプロポーズに関しては考えた末にこう言った。
「やっぱり菜緒にとっては父親はおった方がええんじゃないかあ。でもそんなに急ぐこともないだろう」
私は父の意見に従ってその後も文通を続け、菜緒が小学校に上がる少し前に徹さんと結婚した。とは言っても、徹さんと付き合い始めてから結婚するまでに二人が会ったのは、多分両手の指の数でもおつりが来る程度だったと思う。その当時はまだそんな言葉はなかったけれど、いわゆる『遠距離恋愛』であった。もちろんお互いの好みも分からず、考え方も癖も――ともかく、ほとんど何も分からないことだらけの状態だった。しかし、昔の人はみんなお見合い結婚で、それでもうまくいってるんだから私たちだって……と、思っていた。
作品名:母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ 作家名:ゆうか♪