小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

INDEX|37ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 

 玄関の前で、一つ深呼吸をした。無意識の内にかなり緊張していたのだと思う。
 その家の表札には田丸と書かれてあった。
 ――田丸さんて言うんだぁ……。そう思いながら玄関のチイムを鳴らした。すると中から女性の声で、「どうぞー、開いてますよー」と招かれた。
 私はそうーっとドアを開けた。その時はひどくビクビクしていたんだと思う。
 開けたドアの向こうには四十歳前後の女性と、でっかい犬が待っていた。その女性は二十六歳の私から見ると、お姉さんとおばさんの中間くらいの感じで、なんだか頼りになりそうな人だったし、でっかい犬は、後で聞いたところによると、ゴールデンレトリバーという種類で、とても優しい犬だそうで、私たち初めての人を見ても、全く吠えることもなく静かなものだった。
 私たちは応接間に通されて、少しするとお茶とご主人が現れた。もちろんお茶は奥さんがお盆に載せて持って来たのだが、緊張していたせいか、気がつくと目の前にお茶があり、その向こうにはご主人がいた――そんな感じだった。
 最初に口を切ったのは当然ながら市役所の人で、田丸さん夫婦に私と菜緒を紹介してくれた。私たちは今回の事情を説明したが、できれば養女に欲しいと言われ、正直私は迷った。私といるより、こちらのお宅の養女になった方が、菜緒にとっては幸せかも知れない。見るからに裕福そうな家具や調度品、優しそうなご夫婦、そして少しあとで顔を出した息子さん。菜緒より八歳年上で小学校の四年生だそうだ。菜緒に優しく接してくれている。話をしていても、家庭の暖かさが十二分に伝わってくる。
 ――ここの子になればきっと何不自由なく暮らせるのだろう――
 私はしかし……、できることなら菜緒を手放したくはない……しかし菜緒にとって幸せなのは……?
 私の母は実の母に捨てられ、おじさん夫婦に育てられた。そして私は母に二度も捨てられ、今度は私が娘を捨てるのか……。とてもできない――いや、したくない! そう思いながらも心は葛藤の渦中にあった。
 答えが出せない私は、少し考えさせて欲しいと頼み、その日は一旦退くことにした。田丸さん夫婦は菜緒をとっても気に入ってくれたようだったから、それだけはラッキーだった。
 田丸家をあとにして市役所の人とも別れ、私と菜緒は二人で手を繋いで歩いて家へ帰った。