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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

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 父は、生まれた時に一度だけ孫の顔を見に来てくれたきりだったので、その日迎えに来てくれた典くんと一緒に、自宅に帰る途中で実家に寄った。晴れてお祖父ちゃんになった父は、相好を崩して私たちを迎えてくれた。
 娘の名前は「菜緒(なお)」。何冊も姓名判断の本を読んで決めた。
 菜緒は生まれた時は大きな児だったけど、時が経つに連れ標準サイズになり、大きくなるほどに小柄な体格になっていった。そして菜緒が生後十か月になった時、ついに私たちは破局を迎えてしまった。
 その少し前に、典くんが隠していたある事実が発覚したのだ。それは、私がたまたま覗いた典くんの財布の中から出てきた、サラ金の借入明細が原因だった。金額は二十万円。私はびっくりして、すぐさま典くんを問い質した。典くんは重い口を開いて、なぜそんな借金をしたのか話してくれた。しかし私は信じられなかった。だって私たちの生活自体が借金を背負って辛い状況だと言うのに、「ブラックリストに載ってて、自分で借金できない同僚のために代わりに借りた」と言うのだから……信じられるはずもなかった。
 仕方なく典くんは、その証人となるもう1人の同僚を後日自宅に招んだ。その人とは私も親しくしている間柄だったが、その人には話して、なぜ私には内緒にしていたのか……許せなかった。
 今から思えばたった二十万円のことだけど、その時の私にとっては、あり得ないくらい大きな裏切りだった。
 もとより仕事も休みがちで収入も少ない。起業を夢見ても努力が伴わず、増えるのは借金ばかり。そんな暮らしが根底にあったから余計だったのかもしれないが、私から別れを言い出して、典くんはそれも止むなしと考えていたのか、思いのほかあっさりと応じてくれた。
 私と菜緒は家賃の安い市営住宅に入居し、二人きりの生活が始まった。まだ一歳にもならない菜緒を近くの保育園に入れ、私はちょうどオープン間近のファミリーレストランに就職した。接客業は嫌いではないので、私なりに一生懸命働いた。しかし菜緒は、慣れない集団生活で頻繁に病気になった。仕事の都合で予防接種にも行けなかったりしたからかもしれない。
 菜緒が病気になると仕事は休むしかなく、同僚に迷惑ばかりかけることになり、
次第に行き辛い状況になってしまった。せっかく決まった仕事だったけど、辞めるしかなかった。小さい子供を抱えて働くことの大変さを、身をもって知った。
 次に私が選んだ仕事はヤクルトおばさんだった。まだ二十五歳の私。子供がいなければいくらでも就職はあったと思う。でも菜緒がいなければ……と思ったことは一度もなかった。逆に菜緒がいるから頑張れると思っていた。