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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

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小学校一年のあの日、母が出て行った。

私が近所の子供たちと一緒に遊んでいると、石山の叔母ちゃんが呼びに来た。
「圭ちゃんすぐ帰っておいで!」
 ――一体どうしたんだろう? わざわざ呼びに来るなんて……。まだ帰る時間でもないのに……。
 子供ながらも何かを感じていた。
 家に帰ると仏間にみんなが揃っていた。お父ちゃん、お母ちゃん、おじいちゃんに石山の叔母ちゃん。なぜかみんな暗い顔をしている。

 いきなり母が、涙を堪えるように喉を詰まらせながら言った。
「圭子ちゃん、きっと迎えに来るからね」
 それだけ言うと母は出て行った。なぜか大きなバックを持って――。
 その日から私は母の愛を失った。まだ三歳だった弟は何も分かっていなかった。
 家を出る時言った母の言葉。
 ――圭子ちゃんきっと迎えに来るからね――
 その言葉だけがずっと頭の中で木霊して、決して消えることはなかった。

 小学校の四年生くらいまでは、母は父に隠れて学校まで会いに来てくれたし、たとえ授業中でも先生は大目にみてくれた。でもそれを父に知られてからは、せっかく訪ねて来てくれた母も、私に会えずに帰るしかなかった。母に会えない日が続いても、時は否応なしに過ぎて行き、私は高校三年生になった。

 ――母はもう迎えに来てはくれないんだ――もうずっと前から自分でも分かっていたように思う。そう思う反面、いつかきっと……という思いも同時に存在していた。

 高校三年の冬休みのこと。
 自動車の教習場に通っていた私は、見知らぬ女性に声を掛けられた。
「圭子ちゃん! 圭子ちゃんでしょ?  岩久圭子ちゃんでしょ?」と。
 私は、一体この人誰なんだろうと訝しく思いながらも、
「ええ。そうですけど……」と、答えていた。
「お母さんにそっくりだからすぐ分かったよ」
 えっ! お母さん? 一瞬、誰のことを言っているのか分からなかった。
「もしかして私の母をご存知なんですか?」
「もちろんよ! あんたのお母さんの妹だもん」
「えっ、妹?」
「ただし種違いだけどね」