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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

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 私の意識がすっかり戻ってからの回復は至って順調で、その後二、三日で退院することができた。まだ若い私の身体は、天国の門を通してもらえないばかりか、またこの世に見事に送り返されたのだった。父はきっと、私が生きていることがただ嬉しかったのだろう。私がしでかしたことについてはその後も触れることはなかった。
 退院してからの私は、仕事へは行かずに自宅でしばらく静養していた。職場からは復帰するようにとの連絡ももらったが、その時の私は、まだそういう気分には到底なれなかった。本当のところ、まだ死の世界への未練が断ち切れていなかった。
 そして父を恨んでいた。決して父が悪いわけではないのに……。
 ただ――拓斗が死んだのは父が反対したからだ――と思いたかったのだと思う。
自分が分かって上げられなかったことの悔しさを、すべて父のせいにしていた。
 このままではきっと父に辛くあたってしまう――そう考えた私は、父のそばを離れる決心をした。しかし、父はもちろん反対した。私が一人暮らしをしたいと言うと、いつもの父とは思えないほどの猛反対だった。今思えば、その時もし私を一人にしたらきっとまた自殺する、と心配したのかもしれない。
 結局私は仕事を辞め、京都の田舎にある親戚の家に行くことになった。父が勝手に頼み、そして決めてしまっていた。どうしても自分の手元を離れるのなら姉の所へ、と考えたようだった。

 私は、家を離れる前に一度だけ母を訪ねた。そして京都へ行くと告げた。
 母は淋しそうな様子を隠すこともなく、和箪笥の中から一枚の着物を出してきて言った。
「この着物をあげるから持って行きなさい」と。
 母が出してきた着物は、白地に薄墨で描いたような絵柄の入った訪問着だった。二十歳の私には到底似合いそうもない、少し寂しい柄の着物だった。
「お母さんいいよ。私にはまだこれは早いよ。もう少ししてから貰うから、それまでお母さんが持ってて」
 そう言って私は受け取らずに帰った。