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続 帯に短し、襷に長し

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浴衣語り


 浴衣の語源は、「湯帷子」からきている。
 帷子は、単衣の着物のこと。亡くなった人が着る経帷子は、白い綿の帷子、つまり単衣の着物にお経を書いたもの。鎖帷子は、金属製のリングをつなぎ合わせて作ったお単衣の着る物。
 湯帷子は、沐浴する時に着用した、白い綿のお単衣の着物。
 昔は、お風呂ではなく、野外で水浴びをしたが、やがて、時代が進むにつれ、それが湯、お風呂になった。
 やがて、お風呂上りに着るものになり、湯上りのリラックスタイムに着る室内着を浴衣、というようになった。

 そういう謂れがあるものだから、未だに、江戸時代に生きているつもりの原理主義的脳内博士達は、
「浴衣なんざ、昼日中に恥ずかしげもなく着て闊歩するもんじゃない。そもそも、君らは、パジャマで町が歩けるか?」
 等と、宣うのだ。
 それはつまり、ジーンズ履いたらホテルに入れないのと一緒で、開襟着てたら、だらしがないというのと同じ。
 今、ジーンズを差別する人は、少数ながら存在はするが、社会的には認められているし、開襟なんか、涼しいという理由で、クールビズ推奨である。
 脳内博士たちがおっしゃるのは、白地に藍で描いた柄の、いかにも「The 浴衣!」のことであって、今、皆様が来ている、華やかな色とりどりのものとは、一線を画していいと思う。

 そんな浴衣であるが、今や夏の風物詩である。
 浴衣ドレスなんぞというものも出現し、これは、着物の縫子としてはどうなんだよと裏拳で突っ込みたくなるものだが、総じて、夏、特有の「暑苦しい」スタイルとして定着している。


 そう。
 今の浴衣は、何せ、暑苦しい。
 着付けも暑苦しければ、寸法も暑苦しい。
 見た目のけばけばしい色使い、季節感もなにもあったものじゃない華やかすぎる柄、補正しまくりの着付け。

 夏なんだし、もっと、涼しげに行こうぜ?

 まず、紺色は夜の色だから、夜の涼しさに由来する。白や水色もよい。朝顔は早朝のさわやかな空気を、金魚は水辺を連想させて涼しい。季節先取りの桔梗や撫子、トンボなんかも初秋の乾いた空気を思わせて結構。
 そのほか、縦縞もストンとしていて、さっぱり感がある。

 顧みて、現在の浴衣は、ごてごてとした洋花、ランやバラ、ユリなどの季節感のないもので、はっきりくっきりした原色に近い色とりどりのデザインが多い。
 真紅に近い赤や緋色、びっくりの緑の地色などは、本当に暑苦しい。
 いわゆる、古典柄というものでさえ、古典風の梅や桜の柄に、今風のどぎつい色使いの派手なもので、それのどこが古典柄なんだ、と、大いに突っ込みたいところである。

 寸法も、きっかりくるぶしの隠れるものや、手首の隠れる長さの裄などを見れば、もっさりしていて暑い。
 今の女の子たちのほっそり凹凸のはっきりした体形に、補正なしで着ろとは言わないが、帯が食い込まない程度の補正でいいと思う。
 まるで、振袖でも着るかのような、もっさりした胸のタオルなんぞは要らんと思うのだ。

 夏、盛夏に着るものなのだから、もう少し、清涼感があって、いいと思う。

 幼児の浴衣ドレスは、見ていてかわいいから、良しとする。
 中学生の浴衣ドレスは、コスプレに見えるから、まあ、うん、いいかな。
 高校生になったら、そろそろ卒業しようぜ?
 
 寸法は、くるぶしもうめぼしも見えていい。手首のぐりぐりを、うちではうめぼしと言ってる。むしろ、裄などは、梅干しが見えないとバッグの中を探ったり、用事をするのにうっとうしことこの上ない。
 ただし、中には、ちゃんと下着を着ること。うっかりすると、パンツスケスケである。

 昔、夏着物というのは、透けて当たり前だった。女性の大事な上も下もすけすけ。だから、余計に所作に気を使ったのだ。
 だから、今も透けていいという話ではない。
 貞操観念の薄かった時代と一緒にしてもらっては困る。昔ほど、所作を知らない現代はなおさらである。
 
 浴衣の概念が、変わりつつある現在で、今の浴衣を浴衣とせず、浴衣もどきの別物として理解しなければならないのだろうが、なかなか、切り替えが難しいのだ。
 アパレル業界は、浴衣を扱うときに、「浴衣」ではない別物としてのジャンルを、そろそろ作ってほしいと思う。
 浴衣ドレス、なんて、素敵ジャンルも確立しているのだから、何か、知恵があるだろう。
 ホレ、ホレ。

          (了)
作品名:続 帯に短し、襷に長し 作家名:紅絹