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続 帯に短し、襷に長し

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落款はどこに?



 落款。
 落成款識(らくせいかんし)の略語なのだそうだ。もともとは、書や絵画に、作成日時、製作者の証明のようなものだそうだ。
 いわば、署名捺印の代わりである。

 着物にも、落款がある。
 多くは、着物の下前の衽、下前の衿に出すもので、羽織ならば、下前の衿の裏にくるように染められている。
 我が師匠は、この落款が嫌いで、落款なんか、表に出して着るなんざ、恥ずかしすぎてできるかっ! と、いうタイプである。
 そんな師匠に教わったのだから、ワタクシも、落款は隠す派なのだ。
 ところが、世間はそうではなく、落款は出すものだと決まっているらしい。
 一応、見えるところではなく、下前なのだが。
 特に、作家物――つまり、有名な染め屋やデザイン、着物作家などが染めたり織ったりしたもの――であれば、なおさら。自慢したいのか、作家の自己満足か。
 大方は、下前に出すものだという認識の元であろうが、作家さんも、どうかと思うよね。
 昔は、八掛衽の裏に出すことが多かったのに、何故、下前とはいえ表に出すか?

 という愚痴はともかく。

 着物と羽織では、生地使いが違うから、落款を染める場所も変わってくる。
 簡単に言うと、着物は、下前の衽、裾から1尺~1尺5寸のところに落款が来る。しかも、ど真ん中。
 羽織は、下前の衿の裏の裾から3寸ほどのところ。
 つまり、全然、違う場所に落款が染まってくるのだ。そのはずなのだ。
 しかも、着尺は、衿衽が抱き合わせに染まっているから、ほぼど真ん中で切り離されるようになっている。羽尺は一巾で衿が染まっている。

 染まってる場所、全然違うじゃん? 

 それなのに、着尺の反物を持ってきて、
「これを長羽織にしたいのです。落款は位置を指定して出してもらったらいいですか?」
 と、言う、謎の質問があった。
 そもそも、全く違う場所に染め出された落款を仕立て屋の好きにどうこうできるという発想が不気味。
 更に、聞いてきた人は、云十年、和裁をしているらしく、本職は染め屋で着物のデザインもしているらしい。
 それなのに、着物を「一着、二着」と数えている、この、気持ちの悪い居心地の悪さ!
 我が地元では、これを、「いずい」という。

 そんな方言も取り入れながら。

 落款は、主に、それを染めた人をあらわすものではあるが、見せびらかすものではない。
 また、落款ではなく、ただの白抜きで後でそこに名前を入れるようになっている喪服のようなもの、落款に似せたただの判子というのもある。
 着尺と羽尺では、染める場所が違い、着尺に染まった落款は、羽尺では残布に出すか衿に隠すしか方法がない。ただし、寸法と柄の染にも寄る。

 落款で見栄を張る人はちょっと恥ずかしい。と、いう気風が広まってくれると、踊らされて、着物が無駄に高値になることもないと思うのです。


2015.5.8 こいのぼりも空に昇り終わった頃


作品名:続 帯に短し、襷に長し 作家名:紅絹