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帯に短し、襷に流し

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単衣と薄物


「七月の終わりに、着物を着ていこうと思います。単衣(ひとえ)でいいですか?」

 と、いう質問を目にしたことがある。
 七月に単衣。何の問題があろうか。単衣(ひとえ)でなければ、袷を着ていこうというのだろうか。

 んがっ。回答者は、口を揃えて、まるで小馬鹿にするように、
『ないわー。単衣は無いわw』
『単衣は違うだろー』
『単衣は勘弁w』

 と、いう、お返事。

 ・・・・・・え!? 
 じゃあ、この人たちは、この蒸し殺されそうに暑いのに、袷を着ていくというのか!?
 
『単衣じゃなくて、薄物ね』
『薄物よ』
『薄物でいいんじゃない?』

 ・・・・・・?
 薄物(うすもの)って、単衣じゃないの? 

 着物のややこしいところは、そんなところにある。
 つまり。
 質問文を読んだだけでは、「袷仕立て」か「単衣仕立て」か、という、仕立て方にあるように見えたが、その意味するところは、「合着」がよいか「薄物」であるかの問いかけだった。

 「単衣」とは、仕立て方の呼称である。仕立て方を大別すると「袷仕立て」「単衣仕立て」の二種類になる。
 もっと細かく言うと、半無双とか、胴抜きとか、無双とか、挙句の果てに「うそつき」とか呼ばれるものもあるが、およそ、単衣仕立てに分類されるものである。
 「薄物」は何かというと、見た目の分類法である。透けて見えれば、お召も麻も綿の縮みも、絽も紗も羅も、みな「薄物」となる。織り方も素材も違うが一緒くたにされる。いわば、盛夏の着物の総称のようなものだ。
 盛夏の着物なのだから、「単衣仕立て」になる。
 「袷」の「薄物」というのは、ない。
 だから、「単衣」にしようか「薄物」にしようか。という悩みは、あるはずが無いのだ。「薄物」も「単衣」なんだから。
 じゃあ、何と比べていたのかというと、「合着」といわれるものだろうと思われる。
 「合着」というのは、透けない素材で仕立てた「単衣の着物」の総称である。ちりめんも大島も紬もウールも、単衣仕立てにすると、「合着(あいぎ)」となる。袷と薄物の間に着るもの、という意味で「間着」とも書く。
 よく言われるのは、
「袷の裏を剥いで、表だけにしたら単衣になる?」
 ならない。なるけど、ならない。
 袷は、よく言えば効率よく、悪く言えば、見えないところを手抜きして縫ってある。単衣は、そこも丁寧に始末してある。
 見た目は、然程の差は無いが、脱いだときに、縫込みの始末を気にしなければ、それは、それである。
 四月、五月になると、合着の引き合いが来るようになる。
 反物を解きながら、「そろそろ夏か~」と思うのだ。「和」が季節先取りというのは、そういうところにも現れてくる。
 同時に、汗だくで生地にまみれているところを想像すると、うんざりもする。節電が叫ばれて久しいこのごろ、電気代ばかり食う卑しい空調を、粋な節電野郎に換えたいという願いは、七夕には届かなかった。
 今年も、風鈴とよしずと地球規模の天然扇風機を当てにするしかない。

 「着物」、取り立てて狭義に言い表すと「和服」が、日本の民族衣装なる大仰なものに格上げされてから、ことに、格式を声高に叫ぶ人たちが増えたが、まずは、普段着だったころの懐かしくも当たり前のことを忘れないで欲しい。


 良い着物生活を。
 
2012.7.22 13:42
2014.11.24 加筆修正
作品名:帯に短し、襷に流し 作家名:紅絹