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帯に短し、襷に流し

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羽織のすすめ



 今でこそ、羽織なんて誰も着ない。羽織なんか、カジュアルなんだから礼装には着ない。むしろ、着てるとおかしい。コートのほうが礼装だ。
 などと、大変、悪し様に言われていますが、それほどでもない昔、羽織は常に着物とともにありました。

 呉服屋さんでお勧めするときは、必ず、着物と一緒に、羽織もお見立てしたものです。

 見習いのころ、姉弟子さんが縫う着物の羽織は、私らが縫いました。マチの控えを、身八つとそろえてきれいな窓にするのが、結構・・・・・・、かなり難しいのです。
 むしろ、コートのほうが格下だったんですが、なぜ、羽織はそれほどまでに蔑ろにされたのでしょう。原因が分かりません。

 コートが、羽織よりも格下の理由は、縫い目を割るところにあります。完全な塵除けとしてしか機能しないコートは、塵をすとんと落とすために、全体をフラットに、つまり、段差がなくツラ一になる様に縫います。
 だから、キセがないのです。
 縫い目は、人に見せないものです。裏方を見せることは、恥ずかしいことなのです。キセは、着物に緩みを与え、多少の遊びで布が傷むのを防ぐ以外に、単純に、縫い目を隠すものなのです。

 着用にも、厳格な決まりがあります。コートは、塵除けなので、コートに付いた塵を屋内にもちこまないように、門の前で脱ぎ、手に持って、玄関まで行きます。それは、お店でも同じです。例えば、デパートなどにコートを着ていくなら、その入り口で、必ず脱がなければならないものなのです。
 なぜ、外から持ち込むものに、それほど神経質になるのかといえば、民俗学的ないわれがあるようです。
 
 敷地内、というのは、ある意味で、結界が張ってあるのです。
 ここからここまでが、あらゆるものが入って来ることの出来ない、決められたものだけの領域。つまりは、財産ということになりますが、人から奪われると困るものです。
 そこに邪なものが入ってくると、問題が生じます。
 例えば健康を損なったり、散財の原因になったり、不和の元であったりするわけです。

 「百鬼夜行抄」という漫画に分かりやすい例えがあります。
 普段は、文鳥に身をやつした妖怪(もののけ)は、人の敷地内には入れません。中から招かれるか、印がないと駄目なのです。
 そこで、その家に出入りする人間にフンをひっかけ、その人間が家に入ったところで、フンを目印に家に入り込み、悪さをするのです。

 コート、つまりは塵除けを外で脱ぐのは、そういう意味があります。
 昔は、脱いだコートは、門の外においてくるとか聞いたこともありますが、あまりに記憶が定かではないので、そこまでしたのかどうかは、分かりません。
 でも、他人の家に入るというのは、それだけ、気を使ったのです。

 私が、見習いに入ったころは、「着物の上に羽織を着て、コートを着る」という前提でした。
 そんなに昔のことではありません。たかだか、20年ほど前のことです。ですから、コートは羽織よりも一回り大きく寸法を取ります。
 そんな人は居らんけどな。と、師匠は笑っていましたが、基本はそのようです。

 今、そこまでする人はいますか?
 普通のお宅を訪問するときでさえ、玄関先までコートを着ていきますよね。
 ましてや、今、訪問着などに合わせる礼装用として、コートがお勧めされています。
 どうしてでしょう?

 昔、上着を着ない、着物だけの姿を帯び付きといって、それだけで出歩くことは恥ずかしいことだったそうです。
 お年を召した方は、今でもそうです。
 羽織は、いつも、着物とともにあったのです。

 羽織は、一つ紋をつければ、略礼装となりました。普通の小紋に、一つ紋の羽織を着て、礼装として、卒業式や入学式に着たものです。
 喪服もそうです。
 昔は、女物でも、黒で五つ紋の羽織や、三つ紋の羽織がよくありました。今、喪服をお預かりしても、羽織はありません。
 例えば、小雪交じりのお葬式で、ストーブを炊きながら震えているのに、上を着ないんです。帯つきで、何も着ないから寒いんです。当然の帰結です。
 たいてい、レンタルなんだから、レンタル屋さんは喪服の羽織くらい用意しておけばいいのに。

 今では、一つ紋が入っていても、白い目で見られますね。お葬式に羽織を着てくるなんて。そう、みなの目が語っています。
 あるいは、喪服に羽織を誂えるなんて、お金持ち~。という妬みでしょうか。

 こともあろうに、屋内でも、羽織を脱ぐ。と、ノタマウ方もいらっしゃって、ますます、羽織の地位が低下してきている気がします。
 さらに! ここまでくると、すでに、愚痴の域に入ってしまいますが、コートと羽織を分かってない人がいる! そんな人に限って、でかい口で、コートとは! 羽織とは!! とオレ流をぶち上げているんです。

 着装のルールは、最低限、守るべきだけれど、必要のないルールをでっち上げることは、やめてもらいたい。




 羽織の地位向上を!

2012.11.20 空っ風の季節
2012.11.25 加筆

作品名:帯に短し、襷に流し 作家名:紅絹